二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2010.11.18
第3回 厚さ増す世界の壁
~世界を目指せ! シッティングバレーボール~(3/4)
二宮: シッティングバレーボールは臀部が床についた状態でスパイクもブロックもするわけですから、単純に身長があって座高が高い人が有利なのでは?
真野: そうなんです。跳躍力は全く関係ありませんから、一般のバレーボール以上に身長の高い選手の方が圧倒的に有利になるんです。海外には身長2メートル台の選手もたくさんいますからね。
二宮: それこそ、オランダのような平均身長の高い国は有利でしょうね。逆に日本人にとっては不利な競技ともいえます。
真野: 特に男子は海外との差が相当開いていて、その壁を破るのは非常に難しいんです。ただ、女子の場合は日本の方が動きは俊敏なので、拾ってラリー戦に持ち込むことができるんです。ですから、やり方次第では、メダルも夢ではないと思っています。男子も海外の選手よりも動きはいいのですが、いくら動いてもスパイクが速過ぎて、なかなか追いつくことができません。そのためにも日々練習をし、テクニックを磨いています。
二宮: そのほか、シッティングバレーボールならではの難しさは?
真野: シッティングバレーボールではネットが低いので、直接打ち込まれてしまいます。ですからサーブブロックが許されているのですが、身長が高い選手がブロックに3枚入ると、もう山なりのサーブしか打つことができません。身長が低い日本人には少し不利なルールとなっているんです。
二宮: それでは、ますます身長の高いチームが有利になってきますね。
真野: 正直、全てが身長の高い選手に有利なルールになっていると思いますよ。ですから、柔道の体重別のように、身長でのカテゴリー分けをしたほうがいいと思うんですけどね。
アジアは世界トップレベル
二宮: これまでのパラリンピックでの成績は?
真野: 男子の初出場は2000年のシドニー大会。この時は参加12カ国中9位でした。4年後のアテネ大会では参加8カ国中7位。この大会から女子も正式種目になりましたが、出場権を得ることができませんでした。日本女子が初めてパラリンピックに出場したのが、2年前の北京大会。男女ともに最下位という成績に終わっています。
二宮: 現在、世界で最も強い国はどこなんですか?
真野: 男子はイランです。先天性の障害者はほとんどがシッティングバレーボールをやっているというくらい盛んな国なんです。それとボスニアも強いですね。オリンピックを目指していたようなバレーボール選手たちが、内戦によって障害を持ったことでシッティングバレーボールをやるようになった背景もあって、体格のいい選手がたくさんいるんです。この2カ国が圧倒的な強さを誇っています。女子では最近、中国が強くなってきていますね。
二宮: 中国には約13億5000万人もの人口がいますから、有望な選手がどんどん出てくるんでしょうね。
真野: そうですね。現状では日本との力の差が大分出てしまっています。
二宮: どのスポーツでも日本のライバルと言えば、韓国ですが、シッティングバレーボールではどうですか?
真野: 一般のバレーボールでは韓国の女子は強いですよね。でも、なぜかシッティングバレーボールは参加していないんです。でも、韓国の男子は強いですよ。先日も青森で行なわれた日本選手権に参加してもらって一緒に練習もしたりしたんですけど、やっぱり強かったですね。
競争心がチーム強化の起爆剤に
二宮: 日本には国内リーグのチームはどのくらいあるんですか?
真野: はい。男子が21チーム、女子が11チームで構成されています。ただし、ここには健常者が入っています。パラリンピックには健常者は出場することはできませんから、代表候補としては全国で男子は24名、女子は20名くらいしかいません。ですから、約半数の選手が代表になることができるんです。
二宮: つまり、他の競技以上に競争率は少ないと。
真野: そういうことです。
二宮: 選手にとって代表になりやすいというのが嬉しいことだと思いますが、国内での競争が激しい方が、チーム強化の早道なのでは?
真野: その通りだと思います。出場権を獲得することが前提条件になりますが、パラリンピックに出場したいという選手は多いでしょうから、ロンドン大会では他の競技から有望な選手が競争に加わってくれたらいいなと思っているんです。
二宮: 来月、中国・広州で開催されるアジアパラ競技大会での目標は?
真野: 男女ともにロンドンパラリンピックの切符を獲得することです。男子は前回の世界選手権で優勝しているイランを除いた1位のチーム。そうすると、日本、中国、韓国、カザフスタンの4カ国の争いになると思います。女子も世界選手権で優勝した中国を除く1位のチームがロンドンパラリンピックの出場権を得ることができるのですが、日本、イラン、モンゴルの三つ巴の戦いになるのではないかと思っています。
(第4回につづく)
<真野嘉久(まの・よしひさ)プロフィール>
1965年、大阪府出身。東海大学体育学部社会体育学科卒業。中学から大学までバレーボール部に所属。97年にシッティングバレーと出合い、翌年から日本代表の監督として同競技の普及と選手育成に努めている。2000年シドニー大会、04年アテネ大会では日本男子監督を務め、08年北京大会では日本女子を初めてパラリンピック出場に導いた。日本シッティングバレーボール協会会長。
(構成・斎藤寿子)