編集長コラム
障害者スポーツのおもしろさを求め、現場へ
2011.01.06 [伊藤数子「障がい者スポーツの現場から」]
第3回 車いすテニスが示す認知拡大の糸口
昨年4月、日本の障害者スポーツ界では大きな出来事がありました。2006年から世界ランキングトップを誇る車いすテニスプレーヤー国枝慎吾選手がプロ宣言を行なったのです。それまで国枝選手は母校の麗澤大学の職員として働きながら、その合間を縫って海外ツアーに出場していました。仕事をしながらですから、練習時間などの制約はあったものの、それでも収入の面では安定していたはずです。しかし、自ら安住の地を捨て、テニス一本で食べていくことを決心したのです。「普通の子供がプロ野球選手やサッカー選手に憧れるように、障害のある子供たちにも"自分もプロのスポーツ選手になれるんだ"という夢を与えたい」。プロ宣言した最大の理由を国枝選手はこう述べています。そして今、国枝選手の思いは子どもたちにどんなふうに届いているのでしょうか。その答えを少しだけ垣間見ることができました。
去る12月3日から3日間にわたって第20回NEC全日本選抜車いすテニス選手権大会が行なわれました。最も注目されたのは、最終日の男子シングルス決勝。勝ち上がってきたのは下馬評通り、国枝選手と齊田悟司選手でした。彼らは日本のトップ2であり、世界ランキング1位と同8位。世界で活躍する2人の対戦を間近で観戦できるとあって、会場となった財団法人吉田記念テニス研修センター(TTC)には大勢の人たちが詰め掛けました。
結果は国枝選手の圧勝に終わりましたが、38歳にしてなおも見事なダウン・ザ・ラインを決めたり、こちらが無理だろうと思ったボールにも最後まで必死に喰らいつく齊田選手との対戦は見ごたえ十分でした。それは試合中の歓声や拍手、そして試合後に見られた観客たちの満足そうな笑顔にはっきりと表れていました。
会場には大勢の車椅子の子供たちもいました。「国枝選手を見に来たんだ!」。そう言って興奮している様子を伝え聞いた国枝選手は「子どもたちにそう言われるのが、何より嬉しいし、力になるんです」と非常に喜んでいました。「プロ宣言したことは間違いではなかった」。国枝選手は改めて、そう感じていたのかもしれませんね。
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