二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2024.12.12
前編 乳幼児期の"遊び"が重要
~適性に早く気付ける社会に~(前編)
一般社団法人スポーツ能力発見協会(DOSA)は子どもたちの身体能力を正確に計測し、得意・不得意のスキルを見つける測定プログラム「SOSU」を2016年に開発した。パラアスリートを支援する「DOSAパラエール」にも力を入れる大島伸矢理事長に話を訊いた。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 子どもの運動能力を測定する事業を始めたきっかけは?
大島伸矢: 元々、スポーツが好きで"スポーツをもっと深堀りしたい"と思い、スポーツの運動能力測定を始めました。日本では学校の体力測定以外のものがありません。しかも、その測定の仕方はすごく曖昧で、測る人のストップウォッチを押すタイミング次第で、結果が変わってしまうんです。そのため公平な測定方法が必要だと考えました。とはいえ、ただ測定するだけでは面白くない。測定にはエンターテインメント性も必要です。
二宮清純: 2014年に一般社団法人スポーツ能力発見協会(DOSA)を設立、測定事業を開始してから10年が経ちました。
大島: おかげさまで、今は各自治体から子ども運動実施率の向上や人材発掘のための事業を委託されています。毎週、日本全国を回っています。データを集め、いろいろな分析をしていくうちに見えてきたのは、運動神経が乳幼児の時の遊びで決まってくるということ。
二宮: 主に何歳から何歳が、運動神経を良くするために必要な期間なんでしょうか?
大島: 一番大事なのは3、4、5、6歳の時期ですね。球技が苦手な人は、小さい頃に空間認知能力を育んでいないケースが多い。それはキャッチボールなどをすることで磨くことができます。
二宮: 親の遺伝だ、という人もいますが、必ずしもそうではないんですね。
大島: ボールの落ち方、弾み方は、キャッチボールなどのボール遊びを通じて覚えていくもの。教科書では学べないものです。骨格と筋肉の質は遺伝すると言われていますが、運動神経はそうではありません。例えば右利きの人でもずっと左手で練習していると、上達していく。運動神経を考える上でこれはわかりやすい。
二宮: ある意味、慣れということですね。
大島: その通りです。いろいろな動きに慣れさせていけば、いろいろな動きに対応できるようになります。特に幼少期のスポーツとして、野球はいいとされています。ボールを投げ、捕り、走る。道具を使用する。子どもの時に野球をやっていた人は、他の競技もこなしますね。
【チェックシートの重要性】
伊藤: 野球にはいろいろな運動の要素が入っているわけですね。大島さんは「どんな競技種目でも因数分解すれば基本的な運動の組み合わせで成り立つ」と説明されていますね。
大島: はい。例えばサッカーで強力なシュートを打つなら、求められるスキルは「速い足振り」「片足でブレないバランス力」「正しいフォームをつくる柔軟性」という素数に分けられる。機材を使い、正確に測定すると自分の得意・不得意がわかり、向いているスポーツを割り出すことができるんです。DOSAでは、乳幼児から幼児にかけての「運動遊び指導教室」を実施しています。スポーツをするために必要な基礎となる36項目の動きを、遊びを通じて楽しみながら繰り返していく。そこから適性競技を見つけていきます。
二宮: 昔は木登りや田んぼの稲刈り、雪合戦など、身近な生活環境の中に遊びがありました。しかし近年、そうした機会は少なくなり、人工的につくり出さないといけなくなりました。
大島: おっしゃる通りです。具体的に言えば、親が「危ない」と言って、何もさせてもらえない子どもは、スポーツをするのに必要な動きがほぼできないまま育ってしまいます。
伊藤: 遊びの中でいろいろな動きを身につけることは、日常に潜むリスクを回避することにも繋がります。これは大人になって、また高齢になっても役に立ちます。
二宮: とりわけ障がいをお持ちの子どもさんには必要なことですね。
大島: ところが、まだ環境が整っていない。残念なことに自分の子どもに障がいがあることを人に知られたくない、障がいじゃないことを信じたいので認めたくない親御さんもいます。そこで、DOSAでは障がいを見つけるためのチェックシートをつくりました。その項目を一定数クリアできない場合、何かしらの障がいがあるということがわかるんです。
伊藤: 早いうちに障がいがわかれば、その分早くトレーニングに取り組むことができます。
大島: その通りです。いち早く、そのための教育カリキュラムを受けられます。障がいのある子たちには、何かしらの"ギフト"が与えられている。早いうちに自分の適性を知り、長所を伸ばすことによって、社会参加を促す。それは、障がいのある子どもにとっても社会にとっても大事なことだと思います。
(後編につづく)
<大島伸矢(おおしま・しんや)プロフィール>
一般社団法人スポーツ能力発見協会理事長。1970年4月10日、福岡県生まれ。大学卒業後に就職・企業を経験した後、07年に能力の精密測定を事業化、知育面で活用するプライム・ラボを設立。14年には一般社団法人スポーツ能力協会(DOSA)を設立し、理事長に就任。プロが使う測定ツールで子どもたちの身体能力を正確に計測し、得意・不得意のスキルを共有して早く「好きで得意なこと」に出会える場を提供する測定プログラム「SOSU」を開発。子どものスポーツ能力の測定や向上をサポートしている。DOSAのアスリート支援プログラム「DOSAパラエール」、リクルートキャリアとのコラボ「障がい者アスリート応援プロジェクト」などパラスポーツの支援も行っている。著書に『子どもが伸びる運命のスポーツとの出会い方』(枻世出版)。
一般社団法人スポーツ能力発見協会
(構成・杉浦泰介)