編集長コラム
障害者スポーツのおもしろさを求め、現場へ
2011.09.01 [伊藤数子「障がい者スポーツの現場から」]
第11回 歴史に名を刻んだピストリウス
両足義足ランナーのオスカー・ピストリウスが、世界の舞台を駆け抜けました。韓国・大邱で開催中の陸上世界選手権、男子400メートルに出場したピストリウスが見事、予選を突破し、準決勝に進出したのです。この結果には称賛の声とともに、疑問視する声があがっていることは事実です。しかし、世界の舞台を堂々と走り抜けた彼の姿に、私は感動せずにはいられませんでした。「こうやって、新たな歴史の扉を開いていく人がいるんだな」。彼の並々ならぬ努力を思うと、そう思わずにはいられなかったのです。
28日、男子400メートル予選。私はゴール前の席に座り、彼の登場を今か今かと待っていました。いよいよ最終組、ピストリウスが他の7選手とともにトラックに姿を現わしました。確かに彼だけが両足に義足をつけています。しかし、その堂々たるや、他の選手と何ら変わりありませんでした。
実は予選と準決勝とでは会場の雰囲気が違っていたのです。スタート前に場内アナウンスで選手の名前がコールされるのですが、予選では「オスカー・ピストリウス」という名が呼ばれても、特に観客からの反応はありませんでした。考えてみれば、今大会に義足ランナーが出場することは知っていても、それがどんな選手で、どの種目に、いつ出てくるのか把握している人はそう多くはなかったでしょう。それに加えてスタジアムは非常に広いですから、スタンドからピストリウスを見ても義足ということはほとんどわからないのです。
ところが、予選で3着に入り、準決勝進出が決まったとたん、メディアがこぞって彼を取り上げました。記者会見場には人があふれかえっており、それだけでもピストリウスへの注目度の高さがわかりました。おそらく出場が決まった時よりもメディアの取り上げ方は大きかったことでしょう。瞬く間に全世界にピストリウスの名が広まっていったことは想像に難くありません。すると翌日の準決勝ではピストリウスの名がコールされるや否や、会場中から歓声とともに嵐のような拍手が沸き起こったのです。確かにそれは ピストリウスという一人のアスリートへの称賛でした。
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