二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2025.06.26
後編 ホームタウン活動が一丁目一番地
~社会と未来に活力と感動を~(後編)
二宮清純: 白崎さんはリコーブラックラムズ東京のクラブ・ビジョナリー・オフィサー(CVO)という役職に就いて、3年目を迎えました。
白﨑雄吾: この仕事に就くまで、スポーツチームのホームタウン活動に疑問を感じていました。なぜかというと、チームのホームタウン活動が地域の課題に直結していない気がしていたからです。私がチームに所属して気付いたのは、むしろホームタウン活動こそ一丁目一番地だということ。その積み重ねがユニバーサルデーに繋がったんです。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): ブラックラムズは東京都世田谷区をホストタウンとしています。世田谷区の人口は約93万人。これは23区で最多です。
白崎: 93万人のリソースがあるエリアで、私たちが社会課題を解決するプラットフォーマーになれれば、新しいスポーツの価値提供に繋がるんじゃないかと考えています。よくホームタウン活動は地方の方が浸透しやすいという声も聞きますが、私は都心部でも十分に実現できると思っています。
二宮: 世田谷区のような大きな区で、それを実現できたら、チームの発信力に繋がるでしょうね。近年、「体験格差」などという言葉をよく聞きましたが、障がいのある人たちがスポーツする環境が得られないという話を、よく耳にします。
白崎: スタジアムはもちろんですが、区内にあるブラックラムズの練習拠点、クラブハウスのあるリコー総合グラウンドにもたくさんの人たちが来ていただける場所にしたいと思っています。
二宮: これからのスポーツクラブ運営に言えることは「"スポーツ企業"か"企業スポーツのどちらかを選んでください」ということ。ラグビーの場合は、まだ腰が定まっていない印象があります。
白崎: 新リーグが発足する前の議論で、あるチームは「勝った翌日、社員の士気向上が見られる。だからスポーツ企業にはならない」という意見もありました。スポーツ企業もあれば、企業スポーツもある。それが日本ラグビーの良さという面もあるかもしれません。
【クラブの価値を示していく必要】
二宮: 白崎さんはスペインのプロサッカークラブに視察に行かれたそうですね。
白崎: はい。アスリートのデュアルキャリアを支援する企業を立ち上げた際に、講師になっていただいたサッカー指導者の佐伯夕利子さんが、ビジャレアルCFのフットボールマネージメント部にいた縁があり、現地視察に行かせてもらいました。本拠地のビジャレアルというまちは、人口約5万人と小さなまちながら、国内に限らず、ヨーロッパの大会で結果を残しています。そして何より彼らから学んだのは、何のためにサッカーをやっているのかがはっきりしていたことです。「クラブはどうあるべきか」「いいコーチとは何か」と、フロント側に学ぼうとする姿勢があるんです。これは1997年に会長に就任したフェルナンド・ロッチ氏の影響も大きいそうです。2012年に2部降格を喫した際、ロッチ会長から「アカデミー育成部の予算は1セントも削るな」というのが最初の指示だったそうです。なぜビジャレアルが社会活動をしているかというと、結果的にクラブの価値向上に繋がるからだと。ちゃんとコマーシャルベースで考えているんです。
二宮:よくスタジアムやアリーナを建設する際に「コストセンターからプロフィットセンターへ」と言われますが、真ん中のベネフィットセンターという概念が抜けています。地域住民がスタジアム・アリーナの必要性を感じられるか否か。それが重要です。
白崎: まったくおっしゃる通りです。地域の本当の課題は何なのか、という情報をきちんと取りにいかないといけない。都心に住んでいる人は地域に対するロイヤリティが低いという声もありますが、そういうコンテンツがないだけで、あれば世田谷区民をひとつにできると思っています。その繋ぎ役としてスポーツは最適だと感じています。だから今はいろいろなところに、くさびを打ちまくっています。この一つひとつが繋がっていけば大きなワンチームになると信じています。
二宮: 今後に向け、ユニバーサルデーを継続させること以外の計画はありますか?
白崎: スポーツのチカラで何ができるかということに力を入れていきたいですね。地域や社会の課題に私たちが関われるかどうか。例えばグラウンドの開放を積極的にしていきたいと思っています。今は地域の散歩コースになっていますが、ラグビー部の練習がない時間を使ってイベントを開催していきたい。ここに地域の人が集まり、誰もが交流できる場所にしたいと考えています。
(おわり)
<白﨑雄吾(しらさき・ゆうご)プロフィール>
リコーブラックラムズ東京クラブ・ビジョナリー・オフィサー。1978年、神奈川県出身。2002年明治大学政治経済学部卒業。リクルートグループ2社を経て、2012年に株式会社ビジネス・ブレークスルー(現:株式会社Aoba-BBT)入社。大前研一と共に次世代リーダー育成プログラムの立ち上げに従事した。2017年ビジネス・ブレークスルー大学事務局長としてカリキュラム開発、教員採用、学生募集等大学経営全般の業務と並行して、企業やスポーツチームの研修講師として活動。2022年より株式会En人を設立。同年、ラグビー・リーグワンのリコーブラックラムズ東京クラブ・ビジョナリー・オフィサー着任し、現在に至る。
リコーブラックラムズ東京
(構成・杉浦泰介)