二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2010.04.23
第3回「アイススレッジホッケーを取り巻く厳しい現状」
~氷上の格闘技に魅せられて~(3/4)
二宮: 遠藤さん自身、今回のパラリンピックはソルトレークシティー、トリノに続いて3大会目だったわけですが、チームとしてもこれまでで最もメダルが狙えるチームに仕上がっているという手応えはありましたか?
遠藤: そうですね。前回のトリノの時も非常にいいチームに仕上がってはいましたが、今回はさらに手応えを感じていましたね。ただ、この4年間で新しい選手がなかなか入ってこなかったんです。トリノのメンバーがそのまま4つ齢をとったというような状態だったので、その点においてはちょっと気になっていました。今回、優勝したアメリカには10代の選手がいましたからね。
経験こそが最大の武器
二宮: アイススレッジホッケーは"氷上の格闘技"と言われるくらいハードな競技ですからね。やっぱり体力的にも若い選手がいた方がいいと。
遠藤: チェコ戦で決勝点の2点目を決めた石田真彦さんは42歳の大ベテランですけど、あの年齢ですごいなと思いますね。体力を維持させるのは並大抵のことじゃないですよ。
二宮: 確かに若さや体力も重要だと思いますが、やはり経験というものも大きいのでは?
遠藤: その通りです。アイススレッジホッケーって、本当に経験がものをいう競技なんです。体だけではなく、頭もすごく使うので、42歳の石田さんはまさに玄人ですよ。
二宮: そういう意味では、意外と選手寿命が長い競技なのでは?
遠藤: そうですね。実際、今回の日本代表は30代の選手がメインの構成になっていましたからね。
二宮: 遠藤さんはまだ32歳。あと2大会くらいは狙えるのでは?
遠藤: 2大会ですか!?(笑)。まぁ、8年後はわかりませんが、4年後のソチは狙おうかなと思っています。でも、仕事をしながら、トレーニングや練習をするのは本当にきついですよ。
二宮: 普段はどんな仕事に就かれているのですか?
遠藤: 埼玉県川越市の市役所で働いています。現在は会計室に配属されていますが、以前は保健センターや図書館にいたこともありました。
二宮: 大会がある時はどうしているのですか?
遠藤: パラリンピックや世界選手権など、大きな大会の時には休暇をいただいています。それ以外の合宿や遠征には有給休暇をとって参加しています。
偏りがちな国内リンク事情
二宮: 国内の練習環境はどうなんでしょう?
遠藤: いつも使わせてもらっている施設があるのですが、首都圏でもアイスリンクのあるところは数が少ないだけに、他の競技やチームも集中してしまうんです。だから早朝の時間に順番で使わせてもらっています。
二宮: 練習は冬場が中心ですか?
遠藤: いいえ、僕たちが使わせてもらっているリンクは1年中できるので、夏場でも練習していますよ。とはいっても、週に1回ですけどね。僕たちに割り当てられているのは土曜日の早朝なので、金曜日は仕事が終わって帰宅をしてから、夜中の1時や2時に出かけるんです。トレーニングは民間のジムはなかなか使わせてもらえないので、自分たちで工夫してやっています。
二宮: 土日はほとんど練習にあてられているんですね。
遠藤: そうですね。土曜日の早朝から練習なので、金曜日に飲み会があっても参加できないんです(笑)。
二宮: 首都圏でさえも早朝でないと使えないほどの環境ですから、それこそ地方の方が、アイスリンクのある施設を見つけるのは難しいでしょうねぇ......。
遠藤: そうですね。あっても夏季期間は溶かしてしまって、冬にならないと使えなかったりするんです。ただ、長野県はオリンピック、パラリンピックを開催した地域だけあって、比較的充実していますね。合宿所が併設したリンクもあったりするので、僕たちもよく使わせてもらっています。
二宮: アイススレッジホッケーをやる環境が整っていない地方からはなかなか選手が出てきにくいでしょうね。
遠藤: 現在、最も西の地方では神戸の選手がいますが、関西にはチームがないので、毎週土曜日に長野まで通っているんです。
二宮: 国内ではアイススレッジホッケーのチームはどのくらいあるのですか?
遠藤: 北海道、八戸(青森)、長野、東京の4チームです。ただ、八戸も人数が不足しているので、試合には北海道と合併して出場している状態です。
二宮: では、国内大会はどのように行われているのですか?
遠藤: 3チームで総当り戦をやっています。
二宮: 西の地域にもチームができれば、全国から優秀な選手がもっと出るでしょうね。
遠藤: そうなんですよ。一度、大阪の方にチームをつくろうとしたこともあったんですけどね。残念ながらうまくいきませんでした。
二宮: 海外ではどうなんでしょうか?
遠藤: アメリカやカナダは1つの施設にリンクが3つも4つもあったりするんです。こっちで大学生がやっていれば、あっちでは小学生がやっていたり......。もちろんスレッジホッケーも行なわれています。子供同士なんかは、スレッジに乗った子供が父親に押してもらいながら、健常者の子に交じってやっていたりしますからね。
二宮: 用具なんかはどうなんですか?
遠藤: アメリカやカナダは需要があるだけに日本よりも安いですね。僕も遠征に行った時なんかは、向こうのお店に行ったりするんですけど、日本の半値以下で売られているんです。そういったところひとつとっても、やっぱりアメリカやカナダは違うなと思いますね。
(第4回へつづく)
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<遠藤隆行(えんどう・たかゆき)プロフィール>
1978年3月19日、埼玉県出身。先天性の両下肢欠損。大学時代にアイススレッジホッケーを始め、2002年ソルトレークシティー大会からパラリンピックに出場。前回のトリノ大会から2大会連続で主将としてチームを牽引した。今大会では開会式で日本選手団の旗手も務めた。世界屈指のスピードをいかしたプレーで、銀メダル獲得に大きく貢献。最も活躍した選手に贈られるファン・ヨンデ功績賞に日本人として初めて表彰された。