二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2010.04.30
第4回「ソチへの課題」
~氷上の格闘技に魅せられて~(4/4)
二宮: 今後は現役を続けながら、4年後のソチパラリンピックを目指していこうと。
遠藤: そうですね。ソチまでは頑張ってみようかなという気持ちはあります。
二宮: 今回は銀メダルという大きな成果を挙げられたわけですが、やはり次に狙うのは金メダル。世界の頂点を極めるためには何が必要ですか?
遠藤: やはり選手層ですね。ですから、まずはアイススレッジホッケーの競技人口を増やしたいんです。今回、バンクーバーでは前回トリノの優勝チーム、カナダに勝ちましたし、決勝は負けましたが、アメリカともかなりのところまで近づいているのでは、という手応えを感じました。あの大舞台で世界の強豪チームとあそこまで戦えたというのは本当に自信になりました。
ただ、もう一方でやはり頂点に立つには、選手層が厚くないとダメだなということを痛感したんです。結局、今回も全く出場機会を与えられなかった選手が何人かいます。正直、試合に出るまでのレベルにはいっていないというか......。
二宮: その点、優勝したアメリカは誰が出ても、さほど差はなかった。
遠藤: そうなんです。日本もチーム内の差をなくして15人をフルに使えるようにならないといけません。そうでないと、スタメンの選手がずっと出っ放しで、スタミナが落ちてしまいます。相手は休んでスタミナを温存しているのに、日本はそれができないというのでは、ちょっと苦しいですよね。
人材発掘で普及拡大へ
二宮: そういう意味でもやはり選手発掘に力を入れていかないといけませんね。
遠藤: はい。ソチに向けてすぐにでも動かないといけません。いつもシーズンが終わると、「はい、お疲れ様でした」と解散してしまうのですが、バンクーバーでの成果を次につなげるためにも、今の時期からいろいろと活動していきたいと思っています。
二宮: アイススレッジホッケーの銀メダルはまさに歴史的快挙。日本でもメディアで随分と取り上げられていましたから、遠藤さんたちの活躍を見て「自分もやってみたい!」と思った人も結構いるのでは?
遠藤: 既に何人かからは「練習を見に行きたい」という声もいただいています。ただ、それでもやっぱり数人なんです。待っているだけではなく、自分たちで何か行動を起こしていかなければいけないと思っています。
二宮: 遠藤さんだって全くスポーツをやっていなかったわけですからね。
遠藤: そうなんです。今は競技人口が東日本に偏っていますが、関西や九州にもきっといい選手がいると思うんです。
二宮: 特に若い選手が欲しい?
遠藤: できれば高校を卒業したくらいの年齢層の選手を獲得したいですね。そうすれば、4年後のソチではきっといい具合に育っていると思うんです。
二宮: 全国から情報が得られるようなネットワークは?
遠藤: 今はないですね。手探りで探していくしかありません。車椅子バスケットボールの選手なんかは体力やスピードの面でも候補として挙げられるかなと考えています。
人生観を変えた仲間との出会い
二宮: パラリンピックを見ていると、いつも思うんです。選手はあるものを利用しつつ、逆にないところをうまく武器にしている。人間の可能性を引き出すのが障害者スポーツなんだなと。
遠藤: アイススレッジホッケーはまさにそうですよ。身体の特徴によって、デメリットもあるけど、メリットもある。例えば僕の場合、両足がないので軽いんですね。その分、小回りがきくし、スピードがあるんです。逆に足のある選手は重い分だけ、しっかりとディフェンスができる。僕なんて、軽いから飛ばされちゃいますからね(笑)。
二宮: なるほど。軽い分、上半身は頑丈でなければいけませんよね。
遠藤: そうなんです。相手に当たられて、一回転するなんて、しょっちゅうですから。
二宮: 決して安全ではない。
遠藤: はい。でも、チームには健常者の時にアイスホッケーをやっていた高橋和廣選手がいるんです。彼は本当に頭がよくて、ホッケーの理論にも詳しいんです。だから、僕たちの特徴を把握して、うまく使ってくれるんですよ。
二宮: それは心強いですね。遠藤さん自身は大学まで吹奏楽をやっていて、スポーツとは無縁だったわけですよね。それが今ではアイススレッジホッケー中心の生活をして、パラリンピックで銀メダルを獲得したチームのキャプテンですからね。人生とは本当に不思議なものですね。アイススレッジホッケーをやって人生観は変わりましたか?
遠藤: 変わりましたね。今、こうして取材を受けていますが、人前で話せるようになりましたし、何より自分自身が強くなりました。普段、登山をしたりもするんですけど、それもアイススレッジホッケーで知り合った仲間となんです。いろんなところに行きましたし、いろんな人とも友達になれました。アイススレッジホッケーをやって本当によかったなと思います。
(おわり)
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<遠藤隆行(えんどう・たかゆき)プロフィール>
1978年3月19日、埼玉県出身。先天性の両下肢欠損。大学時代にアイススレッジホッケーを始め、2002年ソルトレークシティー大会からパラリンピックに出場。前回のトリノ大会から2大会連続で主将としてチームを牽引した。今大会では開会式で日本選手団の旗手も務めた。世界屈指のスピードをいかしたプレーで、銀メダル獲得に大きく貢献。最も活躍した選手に贈られるファン・ヨンデ功績賞に日本人として初めて表彰された。