二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2010.06.10
第2回 スポーツ庁創設への道
~国民誰にもスポーツする権利がある~(2/4)
二宮: そもそも同じスポーツでありながら、健常者のスポーツは文部科学省、障害者スポーツは厚生労働省と所管が分かれています。これを一元化しようと、最近では「スポーツ庁」あるいは「スポーツ省」の設立が叫ばれています。私も以前から主張しています。これについて森さんはどうお考えでしょうか?
森: 私はもう何十年も前から「スポーツ庁」「スポーツ省」の必要性を訴えてきたんです。最近では流行語のようになって、動きも活発化してきた。そろそろいい方向へいってもいいと思うのだけど、問題は少なくない。
二宮: 例えばどんな問題が出てくるのでしょうか?
森: 民主党が行っている「事業仕分け」でもわかるように、今は役所や事業をどれだけ減らせるかということに一生懸命です。こうした縮小化の流れの中で、果たして新しい省がつくれるのかということ。オールオアナッシングでやっていたら、いつまでも解決しない。かといって、スクラップアンドビルドの原則でいけるかというと、なくしてもいい役所はないだろうからね。だから最初の段階として、省ではなく、スポーツ庁をつくる方が現実的かなと。妥協するわけではないが、規模の大きさがどうこうと言うよりも、先ずくさびを打つ意味でもスタートさせることが大事だからね。ただ、ここでも問題が発生する。スポーツ庁をどの所管にするのかということ。おそらく文科省か内閣府ということになるのだろうが......。
二宮: 文科省の外局ということになるんでしょうか?
森: そうだね。ただ、それでもやはりすんなりと事は進まないだろうね。スポーツ庁の代わりに何か一つスクラップするという条件が出てくるんじゃないかな。まぁ、一番可能性として大きいのは「青少年スポーツ局」を「青少年スポーツ庁」にすることも考えられる。
第一関門はスポーツ基本法の制定
二宮: 現実的に考えれば、それが一番手っ取り早い。
森: ところが、今度はその中身が問題になってくる。NTC同様、障害者スポーツはどう扱うんだということなんですね。それを解決するには、スポーツ庁をつくる前に、スポーツ政策の基本となっている「スポーツ振興法」を改正しないといけないでしょう。これは東京オリンピック前の1961年に制定されたもの。もう時代に合っていないわけだから、新しいスポーツ基本法を早期につくるべきです。昨年、まだ自民党が与党だった時にスポーツ基本法の骨子案を作成し、国会にも提出したんだけれども、結局政権がかわったことで廃案になってしまった。超党派のスポーツ議員連盟でつくったものなんですから、本来なら政権がどこだろうと関係ないはずなんですが......。このままではいかん、ということで現在また、国会に提出する準備を進めています。
二宮: 民主党もスポーツ政策の必要性は感じているはずですから、今度こそ具体的な動きがあることを期待しているのですが......。
森: 与党も野党もスポーツ庁の必要性は十分に理解しているし、早期に解決すべき問題だという思いは同じなんです。各党で連盟をつくるとしても、審議する中で一本にまとめればいいんです。これ自体に反対する党はないと思いますよ。
二宮: 一番の問題は、その基本法の中で障害者スポーツをどう位置付けるかってことです。
森: もちろん、障害者スポーツも組み込んだ基本法にしなければならない。オリンピックもパラリンピックも同じスポーツとしてスポーツ庁が管轄すべきです。ただ、厚労省が管轄する障害者を切り離すことに抵抗するでしょうね。
二宮: 仮に超党派でスポーツ庁を創設しようという流れになっても、役所間の調整は難航しそうですね。
森: みんなオレがオレがと、自分たちの有益を考えていてはダメですよ。そこから離れないことには、この問題は解決できません。
(第3回につづく)
<森喜朗(もり・よしろう)プロフィール>
1937年7月14日、石川県生まれ。県立金沢二水高校ではラグビー部に所属。3年時には主将としてチームを牽引する。進学先の早稲田大学でもラグビー部に入部。体調を崩して退部した後は雄弁会に所属した。4年時には自民党学生部に入党し、青年部全国中央常任委員に就任した。卒業後、産経新聞社に入社。1963年、国会議員の秘書となり、政治の道へ。69年、第32回衆議院選挙に無所属で初出馬すると、トップで当選する。83年、第2次中曽根内閣で文部(現文部科学)大臣として初入閣。その後も通商産業(現経済産業)大臣、建設(現国土交通)大臣、自民党幹事長を歴任し、2001年には第85代内閣総理大臣に就任した。現在、日本体育協会会長、日本ラグビーフットボール協会会長、日本トランポリン協会会長、日本オリンピック委員会理事などを務め、日本スポーツ界の発展に寄与している。
(構成・斎藤寿子)