二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2010.10.07
第1回 東京発のスポーツ事業
~東京都「スポーツ振興局」の試み~(1/4)
今年7月、東京都にスポーツ振興局が新設された。トップアスリート養成などを担当する生活文化スポーツ局、国体推進部をもつ総務局、そして福祉保健局が管轄していた障害者スポーツを一元化したもので、より効率のよい事業展開を目指している。特筆すべきは健常者と障害者の壁を取り除いた点。国ではスポーツが主に文部科学省と厚生労働省とに管轄が分かれている。それに先駆けた、画期的な試みである。そこで今回は初代局長に抜擢された笠井謙一氏に同局がもつ意味合いと今後の取り組みについて訊いた。
二宮: 健常者と障害者の垣根を払った「スポーツ振興局」は新しい試みとして注目されていますが、設立のきっかけは何だったのでしょうか?
笠井: 一番のきっかけとなったのが2013年に開催予定の国民体育大会なんです。現在は国体の後に、全国障害者スポーツ大会が行われていますが、これを一体化できないかと考えたわけです。その話が出たのが07年。これがスポーツ振興局をつくるきっかけのひとつとなって、今年7月16日にスタートしました。
二宮: さまざまなところで「スポーツ振興」と謳われてはいますが、実際の現場ではなかなか障害者スポーツにまで手が回らないという声をよく聞きます。
笠井: 確かに一元化は容易ではありません。実は障害者スポーツを施設も含め、本格的に福祉保健局から我々のスポーツ振興局に移譲するのは、来年4月なんです。本当は7月16日に障害者スポーツ課も設立して、一緒にスタートしたかったのですが、いろいろと課題が多くて時間的に間に合いませんでした。現在は、障害者スポーツ担当を置き、来年度以降、具体的に何をどうやっていけばいいのかを検討している最中です。
二宮: 具体的に課題とは?
笠井: 例えば、いくらスポーツとはいっても、現場サイドから見れば「福祉の視点も必要だろう」というわけです。それに競技としてではなく、障害者の自立支援のためのスポーツもあるわけで。一番大きいのは、大元である国自体が分かれていること。何をやるにも時間と手間がかかるんです。
苦労してこそ道は開ける
二宮: 文科省が管轄する一般スポーツと、厚労省が管轄する障害者スポーツを一元化した「スポーツ省」「スポーツ庁」の創設が叫ばれて久しいわけですが、東京都がこれに先がけて実現させたことは評価に値します。
笠井: まさにその通りだと思いますね。国はスポーツ立国を目指して、現在のスポーツ振興法を改正しようと、超党派の議員連盟をつくって取り組んでいましたが、結局政権交代で頓挫してしまいました。今は民主党だけの連盟をつくって、独自にやっているようですが、それで果たしてうまくいくのかどうか......。
二宮: もともと、スポーツは医療福祉、雇用や年金などに比べると、国の政策としてのプライオリティが低く感じられます。しかも、省益がからむ霞ヶ関で権限を移譲するというのは簡単なことではありませんから、遅々として進まないというのが現状です。東京都の場合は一元化に対して抵抗勢力は現われなかったのでしょうか?
笠井: 特になかったと思います。障害者スポーツをスポーツ振興局に移譲する福祉保健局からも、反対はなかったのではないでしょうか。
二宮: 今後は東京都がモデルとなって、全国の自治体に広がればいいですね。
笠井: そうなれば嬉しいですね。まずは東京都の区市町村が私たちと同じ目線で考えてくれればありがたいですね。2013年の国体と全国障害者スポーツ大会を併せて、東京都では「スポーツ祭東京2013」と呼んでいるのですが、この大会が区市町村の理解を得るいいきっかけになるのではないかと思っています。
(第2回につづく)
<笠井謙一(かさい・けんいち)プロフィール>
1954年、東京都出身。新都市建設公社総務部長、総務局国体推進部長、総務局行政部長などを経て、今年7月に新設されたスポーツ振興局初代局長に就任した。健常者と障害者の壁を取り除いた、全国初のスポーツ事業に勤しむ。
(構成・斎藤寿子)