二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2010.10.14
第2回 スポーツは"いつでも・どこでも・いつまでも"
~東京都「スポーツ振興局」の試み~(2/4)
二宮: これまで日本では障害者スポーツというと、福祉の分野に入れられて、専任の担当者がいないことが少なくありませんでした。来年4月にスポーツ振興局に障害者スポーツ課ができれば、一歩前進ということになりますね。
笠井: 東京都でも、これまで福祉保健局が担当部署ではあったものの、障害者スポーツ課はありませんでしたからね。都としても新しい試みです。
二宮: それでもまだ、障害者スポーツが抱える課題は山積しています。施設一つとっても、全てバリアフリーになっているわけではありません。
笠井: そうなんです。現在、東京都には障害者がスポーツできる場所としては、北区と国立市に障害者スポーツセンターがあります。しかし、文部科学省が発表した「スポーツ立国戦略」の「5つの重点戦略の目標」には「国民の誰もが、それぞれの体力や年齢、技術、興味・目的に応じて、いつでも、どこでも、いつまでもスポーツに親しむことができる生涯スポーツ社会を実現する」とあります。となると、障害者スポーツも身近な所で気軽にできる環境をつくっていく必要があるわけで、各区市町村のスポーツ施設を障害者が利用できるようにしていかなければいけません。しかし、いくら施設が整っても、指導者やスポーツをするためのちょっとした介護も必要になってくる......。とまぁ、調べれば調べるほど、課題が出てきます。とにかく、障害者スポーツを普及させていくには、一朝一夕ではできません。これらの課題を一つ一つクリアしていくために、現在、さまざまなことを検討しています。
「スポーツ祭」の意義
二宮: 現在、民主党のスポーツ議員連盟では「スポーツ振興法」に代わる「スポーツ基本法」をつくり、来年の国会での成立を目指しています。果たして、ねじれ国会で通るかどうかということもありますが、「スポーツ基本法」の大元となっている「スポーツ立国戦略」の内容自体、障害者スポーツの現場ではあまり評判がよくない。「『国民の誰もが』と言いながら、障害者スポーツのことにはほとんど触れられていない」と。
笠井: 私もそう思いましたよ。「きっと文科省だけでつくったものなんだろうなぁ」というのが正直な感想でした。厚労省の担当者と相談しながらつくっていれば、障害者スポーツについても、もっと具体的なことが盛り込まれていたと思います。
ただ、障害者スポーツに対して意識が低いのは国だけではないんです。障害者スポーツの競技団体が一般の団体にアプローチしようとすると、あまりいい顔をされないという話も聞きます。
二宮: 今後は同じテーブルの席について話し合える環境をつくっていかなければいけませんね。
笠井: はい、そうですね。しかし、「スポーツ祭東京2013」は従来の国体と全国障害者スポーツ大会をひとくくりにして、一つの大会として開催しますから、必然的に体育協会と障害者スポーツ協会が協力していかなければいけません。実際、都体協は障害者スポーツに対して理解を示してくれるようになった、という報告もあります。
二宮: 国体と全国障害者スポーツ大会を一体化させるというのは全国でも初めての試みですか?
笠井: 今までにはないことですね。聞くところによると、日体協の中でも 「これは東京に一本やられたな」と言っているところもあるそうです。それだけインパクトのあることだったのかなと、嬉しく思っています。
二宮: 「スポーツ祭」というネーミングがいいですよね。一般と障害者の垣根を越えて、スポーツを楽しむというイメージが湧いてきます。
笠井: 実はこれ、全国で一般公募したんですよ。ゆりかもめを題材としたキャラクターも出来上がりまして、その愛称も公募し、先日締め切ったところです。
(第3回につづく)
<笠井謙一(かさい・けんいち)プロフィール>
1954年、東京都出身。新都市建設公社総務部長、総務局国体推進部長、総務局行政部長などを経て、今年7月に新設されたスポーツ振興局初代局長に就任した。健常者と障害者の壁を取り除いた、全国初のスポーツ事業に勤しむ。
(構成・斎藤寿子)