二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2010.10.28
第4回 障害者スポーツ普及の第一歩は"認知"から
~東京都「スポーツ振興局」の試み~(4/4)
二宮: 最近、現場で取材をしていると、ナショナルトレーニングセンター(NTC)を障害者が使用させてもらえないという話をよく耳にします。同じ日本代表選手や候補選手でありながら、オリンピック選手は利用しているのに、パラリンピック選手にはなかなか許可が下りないと。文部科学省やJOCに使用許可を求めても、たらい回しにされるそうです。障害者スポーツも同じスポーツとして一元化を進めているスポーツ振興局としては、このような現状をどう思われますか?
笠井: 確かにNTCは素晴らしい施設で、全国でも一つしかありません。ですから、誰もが使えるようにすると、取り合いになってしまう懸念もあるのでしょう。しかし、そうは言っても端から「障害者はダメです」とするのはいかがなものか、と素朴な疑問として思ってしまいますよね。どうすれば障害者も利用できるのかを考えたり、工夫しようとする姿勢くらいは見せてほしいと思います。
二宮: ようやく使用許可が下りても、食堂には行ってはいけないとか、宿泊はダメと言われたケースもあるようです。これはNTCだけの問題ではなく、一般の施設でも同じような現状があるのではないでしょうか。
笠井: そうですね。ただ、問題は施設ばかりではないようです。先日、北区と国立市にある障害者スポーツセンターのスタッフと話をしたのですが、その中でこんなことがありました。障害者の方は、障害者スポーツ専門の施設にばかり行きたがるのだそうです。というのは、一般の施設に行くと、使用許可の手続きが面倒ということもありますが、それ以上に周囲からの視線が気になってしまうからです。
二宮: なかには純粋に「すごいな」とか「こんなスポーツもあるんだ」と思って見ている人もいるのでしょうが、やはり好奇の目で見られるのは人間誰しも嫌な気持ちになってしまいますからね。そういうところは十分に配慮しなければなりません。
笠井: そうなんです。一方、障害者スポーツセンターであれば、そういうことがありませんからね。周りの視線を気にせずに、思う存分にスポーツを楽しむことができるわけです。
二宮: 障害者が利用できるように施設の整備やスタッフの養成といった物質的なものばかりを求めても障害者スポーツの普及はできないと。
笠井: はい。障害者スポーツがスポーツとして認知されていかなければいけません。そのためにも、メディアなどでの露出を増やしていく必要があると思います。
二宮: やはり現場の声は大事ですね。
笠井: 日頃から障害者と直に接している現場の方でなければ、こうしたことはなかなか気づくことはできませんからね。ですから、現場の声を聞くことがいかに大事か、改めてわかりました。
指導者不足解決の道は人材有効活用
二宮: 一方で障害者スポーツの普及には指導者の養成が必須です。
笠井: そうですね。障害者スポーツセンター以外の一般施設まで手が回っていないというのが現状です。
二宮: 今は少子化の時代ですから、教員の採用枠も少ない。せっかく体育の教員免許を持っていても就職口が見つからず、他の職業に就く人が大勢います。それではもったいないと思うんです。そういう人たちが地域スポーツの場でいかされるような制度をつくるということも必要なのではないでしょうか。
笠井: それはいいアイディアですね。実は学校の現場でもそういった柔軟なシステムがつくれないかなと思っているんです。というのも、例えば車椅子の子が体育の授業で何をやっているかと言えば、タイムキーパーだったりするわけです。本来は、その子も一緒にできるような工夫が必要です。でも、30人もの子供たちを一手に引き受けている先生に、それを求めるというのは正直、現体制では非常に難しい。そういう中で、二宮さんがおっしゃられたように、教員資格を持っていても採用が決まらない人や、逆に定年退職をした方など、ボランティアも含めて、学校では手が回らないところを手伝ってもらえるようなシステムが構築できたらと思っているんです。
二宮: 柔軟に考えることで、人材の有効活用ができればいいですね。
笠井: はい。スポーツ振興局だけでなく、区市町村や教育委員会とも連携して、課題を一つ一つ解決していきたいと思っています。
(おわり)
<笠井謙一(かさい・けんいち)プロフィール>
1954年、東京都出身。新都市建設公社総務部長、総務局国体推進部長、総務局行政部長などを経て、今年7月に新設されたスポーツ振興局初代局長に就任した。健常者と障害者の壁を取り除いた、全国初のスポーツ事業に勤しむ。
(構成・斎藤寿子)