二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2010.12.30
第5回 スポーツ中継の意義
~スカパー!の挑戦~(5/5)
二宮: 障害者スポーツの中継を広げるために重要なことは何でしょうか?
田中: 選手は皆、一般スポーツ同様、勝とうと懸命にプレーをしています。決して遊びではない。パラリンピックの代表選手であれば、世界の頂点を目指している。つまり、同じアスリートなんですよ。まずはそのことを感じてもらえるような番組づくりが大事だと思っています。
二宮: なるほど。確かに車椅子バスケットボールの中継を見ていると、障害者への同情ではなく、パフォーマンスの素晴らしさに、まず目を奪われますね。だからこそ、視聴者は「車椅子バスケットボールは面白い!」という気持ちになる。
田中: 「こんなプレーができてすごいな」とか「スピード感あって面白いな」とか、そういった気持ちを起こさせることで、どんどんその競技にひかれていくわけですからね。何度も繰り返すようですが、ドキュメンタリーではなく、純粋にスポーツとしての魅力を伝えていくことが、私たちの役割だと思っています。
二宮: 先日、車いすテニスの国枝慎吾選手がリハビリの成果で、自分の足で歩いた、という記事が大きく掲載されていました。それはそれで大事なニュースだと思いますが、やっぱりアスリートとしての彼のすごさをもっと伝えてほしいなと思いました。何といっても、彼は世界ナンバーワン。あのロジャー・フェデラー選手が認めた選手なんですから。
田中: 全く同感です。パラリンピックの時だけではなく、世界ツアーでの活躍も大きく取り上げてほしいですよね。
地上波への影響
二宮: スカパー!が障害者スポーツの中継に取り組んでいることで、地上波の民放テレビ局も刺激されているのでは?
田中: 地上波の民放テレビ局にとって障害者スポーツはまだまだ遠い存在ではないでしょうか。ただ、我々がやり続けていけば、少しずつ影響は出てくると思うんです。それこそ、今年のバンクーバーパラリンピックではNHKがアイススレッジホッケーの決勝戦を生中継しましたよね。しかも、教育ではなく総合で。つまり福祉ではなく、スポーツとして扱ったということです。これは非常に画期的なことだと思いましたね。
二宮: スカパー!が今後、パラリンピックで車椅子バスケットボールのみならず、さまざまな競技の中継に成功すれば、地上波の民放局も障害者スポーツに注目していくようになるのではないでしょうか。
田中: そうですね。その方向に向かうためにも、今はしっかりと勉強していこうと思っています。やるだけやって、「こんなんであれば、やらないほうがいい」という番組には絶対にしたくありませんからね。
(おわり)
<田中晃(たなか・あきら)プロフィール>
1954年、長野県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年、日本テレビ放送網株式会社に入社。箱根駅伝や世界陸上、トヨタカップサッカーなど多くのスポーツ中継を指揮した。さらに民放連スポーツ編成部会幹事として、オリンピックやサッカーW杯などの放送を統括。コンテンツ事業推進部長、編成局編成部長、メディア戦略局次長を歴任する。2005年、株式会社スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(現・スカパーJSAT株式会社)執行役員常務となり、現在同社執行役員専務、放送事業本部長を務めている。
(構成・斎藤寿子)