二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2011.02.03
第1回 障害者スポーツは文化である!
~新しい企業スポーツモデル~(1/4)
数多くのアーティストをプロデュースし、今や国内音楽業界を代表する企業となったエイベックス・グループ・ホールディングス株式会社。同社が提供するエンタテインメントは現在、映像やスポーツとさまざまな分野へと広がりを見せている。障害者スポーツもその一つだ。エイベックスでは現在、5名の障害者スポーツ選手を雇用している。選手には競技に専念することができるアスリートとしての環境が提供されている。さらに同社は、現役引退後のセカンドキャリアに対しても積極的に取り組んでいる。近年、衰退の一途を辿る日本の企業スポーツ。エイベックスはそのあり方に一石を投じ、新しいスタイルの構築を目指している。そこで今回は二宮清純が執行役員総務人事本部長・三浦卓広氏に同社における障害者スポーツの位置づけ、今後の展望を訊いた。
二宮: エイベックス・グループでは障害者スポーツ選手の採用を積極的に行なっていますね。アルペンスキーヤーの田中佳子選手(座位)、東海将彦選手(立位)に加えて、今回新たに安直樹選手(車椅子バスケットボール)、佐藤圭一選手(ノルディックスキー)、高田裕士選手(陸上)と3名の選手が加わりました。障害者スポーツ選手の採用を始めたきっかけは何だったのでしょう?
三浦: 弊社では、2008年頃から障害者雇用にも積極的に取り組もうという動きがありました。しかし、就業時間が不規則な音楽業界ということもあり、なかなか成立には至りませんでした。そこで社内で議論したところ、私たちが業としている音楽と同じ文化であるのがスポーツだと。ならば、障害者スポーツの世界で何かできるのではないかという話が持ち上がったんです。そんな時、トリノパラリンピックにも出場していたアルペンスキーヤーの田中佳子選手と出会い、彼女を採用したのが最初のきっかけでした。
二宮: 田中選手はどのような待遇なのですか?
三浦: 企業スポーツによくあるように、最初は会社での労働時間を設けていたのですが、田中選手と話をしていく中で障害者スポーツ選手が競技を続ける状況がいかに厳しいかがわかったんです。そこで音楽を業としている企業として、同じ文化であるスポーツを全面的に支援していこうと。アーティストが音楽に専念しているように、彼女にも競技に専念できる環境をつくりました。
引退後も視野に採用
二宮: エイベックスといえば、誰もが知っている音楽業界の大手企業。若い層からも多くの支持を得ています。そのような会社に選手が所属しているとなれば、障害者スポーツのイメージも変わってくるのではないでしょうか。
三浦: そうなれば、我々としても嬉しいですね。当初は会社を前面に出してのPRは全く考えていませんでした。しかし、田中選手、東海選手の活動を支援していくうちに、自然とエイベックスが障害者スポーツにも力を入れていることが周囲にも伝わったのでしょう。今ではいろいろな方面からお話をいただくようになりました。
二宮: 選手にとっては競技に専念できるということで、環境にも恵まれている。障害者スポーツ界では非常に画期的です。
三浦: 選手から過去の話を聞くと、社員契約ということで会社での仕事もしなければならないというのが大半です。でも、それではトレーニングに影響が出てしまう。何も会社に来て何かをすることだけが仕事ではありません。プレーヤーとしての活動を通じて会社に貢献することも立派な仕事のひとつ。それが我々の考え方ですから、選手にはトレーニングに集中できる環境を提供しています。
二宮: 現役引退後についてはどのように考えていますか?
三浦: 採用面接の際にセカンドキャリアについて、選手の考えを聞いています。現役引退後もこの業界でやっていこうと思っているか、将来はどんなことにチャレンジしたいのか......。そのうえで引退後も弊社に貢献してくれるだろうという選手を採用しています。ですから、引退したら「はい、さようなら」ということは全く考えていません。
(第2回へつづく)
<三浦卓広(みうら・たかひろ)>
1965年東京都生まれ。1995年エイベックス・ディー・ディー株式会社(現エイベックス・グループ・ホールディングス)に入社。総務部人事課、総務部企画課長、会長室HRD課長を経て、現在は執行役員総務人事本部長を務める。
(構成・斎藤寿子)