二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2011.02.10
第2回 ビジネスコンテンツとしての可能性
~新しい企業スポーツモデル~(2/4)
二宮: エイベックス・グループにおける障害者スポーツ選手の環境についてはいかがでしょうか?
三浦: 選手と直接会って話をする機会があるのですが、環境については満足してくれているようです。とはいえ、賃金の範囲内での活動ですので、こちら側が見えていない部分での選手の努力も少なからずあるでしょう。そういう部分についても拾い上げて、よりよい環境がつくれたらと思っています。
二宮: バスケットボールやバレーボールでは社員選手もいればプロ契約の選手もいます。例えばJBL(日本バスケットボールリーグ)ではリンク栃木ブレックスのようにプロチームもあれば、企業を母体としながら何人かはプロ契約で、残りの選手は社員契約という形態をとっているチームもある。現在、エイベックスの所属選手は全員、社員契約となっていますが、「将来的な保障よりも3年契約でいいから活躍次第で報奨金が欲しい。その方がモチベーションが上がる」という選手が出てきた場合は、プロ契約という形態をとることもあるのでしょうか?
三浦: 十分に可能性はあると思いますね。人数が増えれば、全員が同じというわけにはいかないでしょうから、柔軟な対応が必要だと思います。そういう契約の仕組みについても構築していかなければいけないでしょうね。
二宮: 社内での反響はいかがですか?
三浦: まだ始めたばかりですので、正直、社内でも「障害者スポーツ選手を採用しているんだな」というくらいの認識ですね。しかし、2008年に田中佳子選手を採用した時には、ちょうど大きな国際大会(2009 IPC障害者アルペンスキー世界選手権大会スラローム女子座位3位)がありましたので、スポーツ事業のマネジメントを担当しているセクションと連携をとり、スポーツ事業の一環として「社内には社員として活躍する選手がいる」ということを告知しました。また、バンクーバー2010パラリンピック冬季競技大会への出場が決まった際には、社内で応援メッセージを募集して選手達に届けるといったような取り組みを行いました。その際は、多くの応援メッセージが集まり社員の意識も変化してきたように思います。
JPCとのコラボレーション
二宮: 将来的には選手のパフォーマンスをバックアップするのみならず、ビジネスとしてのさまざまな事業展開も考えていると。
三浦: そうですね。選手の数も増えてきましたから、将来はどういうコンセプト、ビジョンでいくのかということを話し合っているところです。
二宮: エイベックスは型にはまらず、新しいことにどんどんチャレンジしていく企業と言われています。スポーツにもエイベックスならではの切り口が求められます。
三浦: 私たちとしても「これは面白いことになるかもしれないな」という予感を抱いています。だからこそ今、将来についてのビジョンを明確に打ち出していく必要がある。確かに一筋縄ではいかないこともたくさんあるでしょう。セカンドキャリアの問題にしても、選手たちにどれだけの環境を提示できるのかは未知数です。例えば、選手が引退後は指導者の道を希望するかもしれない。そうなった時にどうすべきなのか。こうしたさまざまなことに対応できるように、今から準備していかなければいけないと思っています。
二宮: 将来を見据えていると?
三浦: はい。それこそ10年、20年といったスパンでの話かもしれませんが、非常に可能性のある分野だと思っています。ですから今から障害者スポーツに参画していることが、将来的には我が社にとって有益になるのでないかとにらんでいます。
二宮: 最近は、日本でもパラリンピックがメディアに多く取り上げられるようになりましたし、障害者スポーツに対する見方も変わりつつあります。将来的にエイベックスからJPC(日本パラリンピック委員会)に何か提案していくことはあるのでしょうか?
三浦: そうですね。今はまだ具体的な働きかけはしていないのですが、我々のコンセプトをきちんとつくりあげてビジョンを明確にしたうえで、JPCとも将来に向けた議論のできる関係性を築けたらと思います。
(第3回につづく)
<三浦卓広(みうら・たかひろ)>
1965年東京都生まれ。1995年エイベックス・ディー・ディー株式会社(現エイベックス・グループ・ホールディングス)に入社。総務部人事課、総務部企画課長、会長室HRD課長を経て、現在は執行役員総務人事本部長を務める。
(構成・斎藤寿子)