二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2011.02.17
第3回 "遊び"から始まる音楽とスポーツ
~新しい企業スポーツモデル~(3/4)
二宮: エイベックス・グループが初めて障害者スポーツ選手として田中佳子選手を採用したのが3年前。社内での反応はいかがでしたか?
三浦: 実は、最初から社員として就業時間をきっちりと守らせなければいけないというような感覚は、我々にはなかったんです。もちろん、企業として就業規則もあれば始業時間、終業時間も決まっています。しかし、我々が業としている音楽というのはベルトコンベヤーのようにヒット曲が生まれるものではありません。その人の才能や感性、そして閃きの部分が大きい。ですから、社員に対してルールでガチガチに縛ることはしていないんです。そのために田中選手を採用した際もアスリートとして競技に専念できるようにサポートするという点において、ほとんど抵抗感はありませんでした。そういう意味ではスムーズだったと思います。
二宮: なるほど。クリエイティブな会社だからこそ、スポーツへの理解もあったと。クリエイターもアスリートも、重要なのは朝から晩まで会社に詰めていることではなく、いろいろなモノに触れ合うことで感性を磨いたり、パフォーマンス向上のためにトレーニングをすること。こうした共通の部分があったことで、特に壁を感じることがなかったということですね。
三浦: そうなんです。今考えると、私たちには障害者アスリートを受け入れる土壌ができていたのかなと思いますね。弊社の代表取締役社長である松浦勝人も「いい作品は遊びから生まれる要素が大きい」とよく言っていますが、そもそもスポーツも遊びから発展した文化ですよね。
二宮: スポーツ(sport)の語源は「遊ぶ」という意味の「desport」からきているといわれていますからね。
三浦: そう考えると、音楽とスポーツは非常に親和性が高いんです。
引退後の環境づくり
二宮: 松浦社長自身はスポーツへの関心は高いのでしょうか?
三浦: 松浦は非常に多趣味で、スポーツに限らず、いろいろなものに好奇心を抱くんです。しかもいったん興味をもったものに対しては、どんどん突き進んでいくタイプ。趣味で始めたものでも、2、3カ月後にはほとんどプロ並みになっていることもしばしばです。
二宮: だからこそ、障害者スポーツという新しい分野にも理解があったのでしょうね。
三浦: 松浦自体が型にはまるタイプではないですからね。常識的なことでも「なんでそういうルールなの?」「なんで、うちの会社がやってはいけないの?」と言うくらいですから(笑)。
二宮: 今後の採用予定は?
三浦: これまではウインタースポーツの選手のみでしたが、今回採用した3名の中には車椅子バスケットボールや陸上の選手がいます。少しずつ種目が増えてきましたから、3年後、5年後というスパンで今後はどのように採用枠を広げていくのかを、一度きちんと話し合っていく時期にきているかなと思っています。
二宮: とはいえ、障害の種類も度合いも違いますから、採用する側もそれぞれに対応した環境づくりが欠かせませんね。
三浦: 確かに最初はそれぞれの障害者に対応することは難しいんじゃないかと思っていたんです。しかも働くとなれば、いろいろと制限が出てくる。しかし、よくよく考えてみると、少しの環境さえ整えれば、それぞれ適性のポジションは必ずあるだろうし、あとは本人次第なのかなと。例えば車椅子の選手が引退して、社員となった時に、広めの駐車場スペースやスロープの取り付けなどの対応は必要ですが、仕事での評価は他の社員と同じように扱っていいと思うんです。
とはいっても、今すぐに決められることではありませんので、現役活動を続けている選手が引退することを前提に、どのような環境整備が必要になるのか、どのようなポジションで働いてもらうのか、などを話し合っておく必要がありますね。
(第4回につづく)
<三浦卓広(みうら・たかひろ)>
1965年東京都生まれ。1995年エイベックス・ディー・ディー株式会社(現エイベックス・グループ・ホールディングス)に入社。総務部人事課、総務部企画課長、会長室HRD課長を経て、現在は執行役員総務人事本部長を務める。
(構成・斎藤寿子)