二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2011.03.03
第1回 原点回帰となった敗戦
~世界のトップであり続けるために~(1/5)
「史上最高のテニスプレーヤー」と言われるロジャー・フェデラーが実力を認めている車いすテニスプレーヤー国枝慎吾。2008年の北京パラリンピックではシングルスで悲願の金メダルに輝くと、翌年にはプロへの転向を表明した。さらに昨年には車いすテニスの男子では前人未踏のシングルス107連勝を記録。昨年11月の世界マスターズで3年ぶりの敗戦を喫したものの、それをも糧にし、今もなお進化をし続けている。その国枝選手に二宮清純がロングインタビュー。連勝がストップした当時の心境、そして来年のロンドンパラリンピックへの意気込みについて訊いた。
二宮: 1月の全豪オープンでは5連覇達成、おめでとうございます。昨年の世界マスターズでは準決勝で敗れ、2007年から積み上げてきた連勝記録が107でストップしました。しかし、全豪でそのリベンジを果たせたのでは?
国枝: そうですね。正直なところそういう気持ちはありましたね。というのも、全豪の決勝の相手が世界マスターズで敗れたステファン・ウデだったんです。そういうのもあって、非常に感慨深いものがありました。
二宮: 連勝がストップした時は、相当なショックを受けられたでしょうね。
国枝: もちろん、負けた時は悔しくて、少し落ち込みもしました。でも、翌日になったら「負けてよかったな」と思えるくらいスッキリした気持ちになりましたね。
二宮: 「負けてよかった」というのは?
国枝: 負けるまでの半年間というのは、勝つためではなく、負けないためのテニスだったんです。それは自分の中でも気付いていました。でも、やはりリスクを負うことを怖れていたんでしょうね。無意識にテニスが守りに入っていたんです。それがもろに出たのが昨年の世界マスターズでした。
二宮: 連勝記録が頭にあって、自分から攻めるというよりも、相手のミスを待つようなテニスだったと?
国枝: 連勝記録にこだわっていたわけではないのですが、やはり頭のどこかに「負けちゃいけない」ということはあったんでしょうね。勝ち続けてはいましたが、自分が納得したプレーはどんどん減る一方だったんです。自分でもそれはすごく感じていたので、この負けをいいきっかけにできればと、すぐに気持ちを切り替えることができました。
二宮: 負けたことによって、肩の荷が下りて初心に戻ることができたんでしょうか......。
国枝: そうですね。もう一度、挑戦者に戻れたかなと思いますね。今年の全豪の決勝では、久しぶりに納得のいくパフォーマンスをすることができました。
二宮: 負けた次の試合が一番大事なんでしょうね。
国枝: そうだと思いますね。ウデとは世界マスターズ以来の決勝での対戦でしたので、連敗はどうしても避けたかった。だから正直、勝つことができてホッとしましたし、自信を持つことができました。
移動手段は車が一番!
二宮: さて、今日はちょうど国枝さんの新車の納車日ということで、ホンダカーズ柏 柏駅前店にお邪魔していますが、国枝さんのお気に入りは「ホンダ オデッセイ」だそうですね。
国枝: はい。元々オデッセイが好きで前の車もオデッセイだったのですが、すごくスムーズに運転できて、使い勝手もいいので、すごく気に入っているんです。
二宮: 結構、大きいですよね。
国枝: 僕らはテニス用の車椅子を積まなければいけませんし、ラケットだったりとか結構、荷物が多いので、どの選手もステーションワゴンやワンボックスタイプで、トランクが広い車に乗っていますね。いろいろな車がありますが、中でもオデッセイはデザインやカラーがスタイリッシュで好きなんです。僕の車も「プレミアム ミスティックナイト・パール」なのですが、明るい所だと真っ黒ではなく、少し深い緑色が入っている様に見えるんです。それに走りの性能もすごくいいので、僕の中では「この車しかない」という感じです。
二宮: 確かに練習や試合に行くのに、車があるのとないのとでは全く違いますよね。
国枝: そうなんです。今では電車もだいぶ使い勝手が良くなってきましたが、やはり車にはかないません。今ではどこに行くにしろ、車での移動がほとんど。もう、車椅子同様、自分自身の足となっていますね。
(第2回につづく)
<国枝慎吾(くにえだ・しんご)>
1984年2月21日、千葉県出身。小学4年の時に脊髄腫瘍で車いす生活に。小学6年から車いすテニスを始めた。2004年アテネパラリンピックダブルスで金メダルを獲得。07年には車いすテニス史上初のグランドスラムを達成。08年北京パラリンピックシングルスで金メダルに輝いた。09年4月、プロ転向を表明。06年から世界ランキング1位をキープし続けている。昨年は連勝記録が107でストップしたが、今年1月の全豪オープンでシングルス、ダブルスともに5連覇を達成した。
(構成・斎藤寿子)
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