二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2011.03.31
第5回 ロンドンへのシナリオ
~世界のトップであり続けるために~(5/5)
二宮: 今や国枝さんのテニス人生を支えているもののひとつが、車だと思います。免許を取られたのは何歳の時?
国枝: 高校3年の卒業前ですね。1カ月ほど、地元の教習所に通って取りました。車が運転できるようになって、それまでとは比較にならないほど世界がパーッと広がっていきました。
二宮: やはり、日本では車椅子で公共の交通機関を利用するとなると、不便な面が多いのでしょうか?
国枝: いえ、そんなことないですよ。スロープがついているところもだいぶ増えましたしね。それに僕は、車椅子になって不自由を感じることはあまりないんです。エスカレーターにだってヒョイッと乗っちゃいますし、電車にも一人で乗り降りできますからね。逆に平面では車椅子の方が速く行けちゃったりしますから(笑)。ただ唯一、ネックになっているのが階段なんです。
二宮: 昨年、訓練によって歩行に成功したとか。
国枝: はい。階段があると一人では上がることができないので、どうしても躊躇してしまうんです。行きたいレストランがあっても、引き返して別のお店に入ったり......。だから、ゆっくりでも車椅子を担いで上がることができれば、さらに自由が広がるなと思って歩行訓練を始めました。友達の肩を借りて階段を上れるようになるだけでも、違うと思いますしね。
車は一人を楽しむ最適な空間
二宮: 車の話に戻りますが、国枝さんは以前から「ホンダ オデッセイ」を気に入っていて、ずっと乗っていたそうですね。今回の「オデッセイ」には何か新しく取り入れられたものはあるんですか?
国枝: 僕たちはアクセルもブレーキも手動でやるのですが、これまでは他社メーカーの手動装置を使っていたんです。今回、初めてホンダの手動装置「テックマチック」を取り付けてもらいました。使い勝手などをホンダさんにフィードバックして、役立ててもらえたらなと思っています。
二宮: 徐々に暖かくなってきて、ドライブには最適な季節になってきましたね。これまで愛車では、どこにドライブに行かれましたか?
国枝: 一番遠い所では、北海道でのドライブを楽しんだことがあります。青森まで6時間かけて運転して、そこからフェリーに乗って......。1週間で3000キロほど走りましたよ。
二宮: いい気分転換になったのでは?
国枝: だいぶなりましたね。車の中って、一人で気軽な時間を過ごすことができる最適な空間なんですよ。好きな音楽を聴いて口ずさんだりもできるし、独り言を言っても平気ですしね。僕にとっては、そういうことがいい気分転換になっているんです。
サーブ強化が飛躍へのポイント
二宮: さて、今年はロンドンパラリンピックの前年ということで、国枝選手にとっては大事なシーズンとなります。どのようなテーマをもってこの1年を過ごそうと思っていますか?
国枝: 来年のロンドンでは、「これまでやってきたことをやり尽くした!」と思えるようにしたいんです。そう思えるくらいまでのレベルに達するためには、サーブが一番の強化ポイントだと考えています。
二宮: 一発で決めるくらいのパワーサーブを身につけるということでしょうか?
国枝: というよりも、細かくコースの打ち分けができるようなコントロールを身につけたいんです。相手が嫌がるようなコースに打って、リターンのボールで仕留めるというのが理想です。
二宮: サーブの精度を上げるためには、何が必要でしょう?
国枝: いかに体幹を鍛えるかが重要になりますので、そこを意識したトレーニングを行なっています。体幹を強化すれば、ケガの予防にもつながってきますので、来年のロンドンパラリンピックでは万全の体調で臨みたいと思っています。
二宮: 他に工夫している点は?
国枝: 例えば、サーブを打つ時の車いすの向きを少し変えただけで、打球の角度や回転が結構変わるんです。体の強さと相談しながら、どれだけひねるかといったところも関係してくる。まだまだ研究の余地は十分にあります。
二宮: 国枝さんほどのトップレベルでも、まだ研究の余地があると?
国枝: ありますね。僕自身、まだ未熟だと思っていますし、試合には勝っていますけど、実は苦手なところもある。これは誰にも言えませんけどね(笑)。そういったところも今後、磨いていけたらなと思っています。
(おわり)
<国枝慎吾(くにえだ・しんご)>
1984年2月21日、千葉県出身。小学4年の時に脊髄腫瘍で車いす生活に。小学6年から車いすテニスを始めた。2004年アテネパラリンピックダブルスで金メダルを獲得。07年には車いすテニス史上初のグランドスラムを達成。08年北京パラリンピックシングルスで金メダルに輝いた。09年4月、プロ転向を表明。06年から世界ランキング1位をキープし続けている。昨年は連勝記録が107でストップしたが、今年1月の全豪オープンでシングルス、ダブルスともに5連覇を達成した。
(構成・斎藤寿子)
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