二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2011.05.12
第2回 交通事故からの再起
~車椅子バスケットボールと共に~(2/4)
二宮: 根木さんが車椅子生活になったのは高校3年の時。車での交通事故が原因だったと。
根木: はい。もう卒業後の進路も決まっていたので、車の免許を取ったんです。それでレンタカーを借りて友人の家に遊びに行く途中で、交通事故を起こしてしまいました。
二宮: 事故のことは覚えていますか?
根木: 意外にも意識ははっきりしていたので、覚えていますね。ほとんど真っ直ぐの道だったんですけど、何せ免許取り立てだったもので、下手くそだったんでしょう。緩やかなカーブやな、と思って反対にハンドルを切ったら、そのまま突っ込んでしまったんです。車が木に思い切りよくぶつかった衝撃で、僕の体はフロントガラスから外に放り出されてしまいました。そしたらそこに、車が乗っかってきたんです。「やばい!」と思って、抜け出そうとしたのですが、体が全然動かなくて......。それから病院に運ばれて手術をしたのですが、みぞおちのちょっと下くらいの脊椎が麻痺していて、車椅子生活ということになったんです。
二宮: まだ18歳ですから、ショックも大きかったのでは?
根木: 大きかったですね。というのも、僕はスポーツをずっとやってきていたんです。小学校の頃は柔道で全国大会にも出場しましたし、中学校では水泳をやっていて個人メドレーで奈良県の記録をつくりました。高校でも水泳を続けようと思っていたのですが、新設校でプールがなかったので、サッカー部に入りました。自分たちの学年しかいませんから、それこそ部員を集めるところから始めたんです。そんなんで、スポーツ中心だったものですから、車椅子になって自分の足で走れなくなったことに、ショックは大きかったですね。
負けず嫌いから始まった車椅子バスケ
二宮: 立ち直ったきっかけは?
根木: 車椅子バスケットボールとの出合いでした。入院して半年くらい経った時に、地元の車椅子バスケットボールの選手が会いに来てくれたんです。当時は車椅子バスケットボールという競技なんか知らなかったですから、「なんだ、この人は。ちょっといい車椅子に乗っているな」としか思いませんでした。そしたら「バスケットしない?」と誘ってくれたんですよ。
二宮: 彼らは根木さんのことをどうやって知ったんでしょうか?
根木: そのチームに所属していた先輩の何人かが、僕と同じ病院に定期的に入院していたんです。それで僕のことも知ったようですね。
二宮: まだ18歳と年齢的にも若いし、スポーツ経験もある。将来の有望株として勧誘しにきたわけですね。
根木: はい。地元の「奈良ディアー(deer)」というチームだったんですけど、全国制覇を本気で目指しているようなチームだったんです。それで高校3年生でスポーツ歴のある僕を仲間に入れようと、一番年齢の近い選手とマネジャーがわざわざ会いに来てくれたんです。
二宮: 車椅子バスケットに対する違和感は?
根木: 正直、当時はまだバスケットが好きではなかったんです。高校時代はずっとサッカーをやってきていて、ボールを蹴っていたわけですから。「一緒にやろうよ」って言われても、「はぁ......」って感じでした。
二宮: 車椅子バスケの魅力を感じるようになったのは?
根木: 一度、練習を見に行こうということになって、また別の日に車で迎えに来てもらったんです。当然、マネジャーが運転するんだろう、と思っていたら、選手自身が運転していて、まずそこで驚きました。それから一緒に行動しているうちに、車椅子でもいろんなことができることがわかって、徐々に憧れの人になっていったんです。それから練習を見させてもらったら、みんなすごいことをやっているわけですよ。自分はまだ車椅子に乗るのが精一杯だというのに、車椅子を自在に操って、激しくぶつかり合いながらシュートを決めてしまうんですからね。もともと負けず嫌いということもあって、「自分と彼らとのこの違いは、いったいなんなんだ?」と思ったわけです。それが前に進むことができたきっかけでした。
(第3回につづく)
<根木慎志(ねぎ・しんじ)プロフィール>
1964年9月28日、岡山県生まれ。高校時代はサッカー部に所属していた。高3の冬、交通事故で脊髄を損傷し、車椅子生活となる。知人からの誘いで車椅子バスケットボールを始め、日本代表候補になるまでに成長した。96年のアトランタパラリンピックでは最終選考で落選したが、4年後のシドニーパラリンピックでは念願の初出場を果たし、主将としてチームを牽引した。現在は所属する「B-spirits」(大阪)でコーチングプレイヤーを務める。PwC(プライスウォーターハウスクーパース)のメンバーファームであるあらた監査法人に勤めながら、日本パラリンピアンズ協会副会長、アスリートネットワーク理事など、幅広く活躍している。
(構成・斎藤寿子)
☆プレゼントのお知らせ☆ 根木選手のサイン色紙を読者2名様にプレゼント致します。メールの件名に「根木選手のサイン色紙希望」と明記の上、本文に住所・お名前・電話番号、このコーナーへの感想をお書き添えいただき、こちらからお申し込みください。応募者多数の場合は抽選とし、当選の発表は発送をもってかえさせていただきます。たくさんのご応募お待ちしております。(締め切り5/31) |