二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2011.05.19
第3回 16年目で叶えたパラリンピックへの夢
~車椅子バスケットボールと共に~(3/4)
二宮: 車椅子バスケットボールは格闘技さながらの激しさがあります。接触も多く、タイヤに手が挟まったりして、ケガが絶えないのでは?
根木: 接触しているのは選手の体ではなく、車椅子同士なので、例えば車いすラグビーのように鞭打ちになることもほとんどないんです。車椅子を操作する手も、タイヤはハの字になっていますから、挟まることはまずありません。とはいえ、車椅子ごと思い切りぶつかっていきますから、それに耐えうる体づくりは不可欠です。特に国際大会では、自分たちよりも大きな体格の外国人選手とやらなければいけませんから、フィジカル強化の重要性を実感しますね。
二宮: 根木さんは、日本人選手の中でも体が大きい方では?
根木: よくそう言われるんですけど、実は身長も171センチしかありませんし、決して大きい方ではないんですよ。
二宮: でも、柔道経験があるからなのか、骨格がしっかりしていますね。
根木: いえいえ。30代前半の頃までは体の線が細い選手だったんです。国内ではスピードと俊敏な動きでそれなりに活躍していましたが、国際大会では当たり負けして、全く歯が立ちませんでした。それでシドニー大会に向けて、1年間ほど筋力トレーニングに費やしました。いろいろな人に方法を聞いたり、本を読んだり......。手探り状態でしたけど、あらゆることをやりましたね。
仲間の笑顔が起爆剤に
二宮: 来年はロンドンパラリンピックがあります。根木さんがパラリンピックに出場したのは2000年のシドニー大会でした。36歳での初出場ということもあり、感慨深いものがあったのでは?
根木: 選ばれた時は最高に嬉しかったですね。自分としては1996年のアトランタ大会に照準を絞っていたんです。32歳という年齢も考えて、「ここが自分のピークかな」と思っていましたから。でも、最終選考で落とされてしまいました。もう悔しくて悔しくて、正直、腐りかけていましたね。「何がオリンピックだ!何がパラリンピックだ!」と、テレビでオリンピックを応援するCMを観ることさえも嫌で仕方ありませんでした。
二宮: そこから立ち直って、4年後のシドニー大会を目指し始めたのは何がきっかけだったのでしょう?
根木: ひょんなことからでした。同じアスリートが活躍している映像を観るのが辛くて、オリンピックの期間は一切テレビを観ませんでした。それでオリンピックが閉幕して、「もうそろそろいいかな」と思って、ある日テレビのスイッチをつけたんですね。そしたら、偶然にも車椅子バスケットボールの代表選手が顔をクシャクシャにしながらテレビカメラにVサインをしている姿が映し出されていたんです。よく観たら、パラリンピックの開会式だったんですよ。みんな最高の笑顔をしていましてね、またも悔しさがこみ上げてきました。でも、同時に思ったのは「やっぱり、パラリンピックはすごい大会だな」ということ。そしたらなんだか悔しがっているだけで何もしていない自分に腹が立ってきたんです。開会式を観ながら「よし、4年後は絶対に行ってやるぞ」と誓いました。
二宮: パラリンピックへの気持ちに再び火がついた瞬間だったわけですね。4年後、その思いが実現します。しかも、キャプテンに抜擢されました。
根木: はい、ありがたかったですね。いくらベテランだからといっても、普通は一度もパラリンピックを経験していない選手にキャプテンを任せるなんてあり得ないんです。でも、コーチが推薦してくれたみたいで......。結果は9位でしたが、やり切った感はありましたね。
二宮: これまで日本男子は7位が最高位ですが、メダルを獲得するために必要なものとは?
根木: 現在、世界では米国、カナダ、オーストラリアが3強を張っています。米国はドリームチームですし、カナダは組織として強い。そしてオーストラリアはジュニア世代の育成が成功しているので、どんどん強くなっている。08年の北京大会ではそのオーストラリアが優勝しました。日本もある程度、長期的に考えて、ジュニアの育成に力を入れていかなければいけないと考えています。僕自身も、今後はそうした活動をしていきたいと思っています。
(第4回につづく)
<根木慎志(ねぎ・しんじ)プロフィール>
1964年9月28日、岡山県生まれ。高校時代はサッカー部に所属していた。高3の冬、交通事故で脊髄を損傷し、車椅子生活となる。知人からの誘いで車椅子バスケットボールを始め、日本代表候補になるまでに成長した。96年のアトランタパラリンピックでは最終選考で落選したが、4年後のシドニーパラリンピックでは念願の初出場を果たし、主将としてチームを牽引した。現在は所属する「B-spirits」(大阪)でコーチングプレイヤーを務める。PwC(プライスウォーターハウスクーパース)のメンバーファームであるあらた監査法人に勤めながら、日本パラリンピアンズ協会副会長、アスリートネットワーク理事など、幅広く活躍している。
(構成・斎藤寿子)
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