二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2011.06.30
第5回 欲しいのは金メダルよりも世界記録!
~注目!世界の頂に最も近い日本人ジャンパー~(5/5)
二宮: アル・ジョイナーから幅跳びの指導を受けてから約2年になりますね。記録の伸びはいかがですか?
中西: アルの指導を受けてからは着実に記録を伸ばすことができています。実は私、北京パラリンピック以前にも幅跳びに挑戦したことがあったんです。でも、3メートルちょっとくらいしか跳べなくて......。一緒に練習していた選手から「センスがないから、やめた方がいい」と言われました(笑)。でもまぁ、その時はそう言われても仕方ない感じでしたね。それで北京が終わってから本腰を入れてやってみようと。初めてアルと練習した時も、1本目は3メートル10でした。でも、ちょっとアドバイスをもらって2本目を跳んだら、いきなり4メートル20だったんです。ビザの関係で一度、帰国しなければならず、アルとは1カ月半くらいしか練習できなかったのですが、それでも帰国後に出場した大会で4メートル71を記録しました。
二宮: 当時の日本記録は?
中西: 4メートル46です。
二宮: ジャンパーとして初めて臨んだ大会で日本記録を塗り替えたと。
中西: はい、そうなんです。さすがにその時は驚きと喜びで体が震えあがりましたね。アルが1カ月半のうちに、どうやってここまでジャンパーとしての私を育て上げたのか、不思議で仕方ありませんでした。
二宮: 1カ月半の間に、どのような指導を受けたんですか?
中西: 最初に言われたのは「考えるな」ということですね。「考えて跳ぶとうまく跳べないし、そんなのは役に立たない」と言われたんです。技術は頭で考えるものではなく、体で覚えるものだと。頭で考えながらやっても、それは時間が過ぎると忘れてしまう。でも、体で覚えれば、どんなに時間が空いても、体が無意識に動いてくれるんだそうです。
二宮: 「考えなさい」と言うコーチはいても、「考えるな」と言う人はなかなかいませんよね。
中西: アルは「麻耶はそんな細かいことを考えなくてもいい。考えるのはコーチである僕の仕事なんだから、取るな!」って言うんですよ(笑)。
歴史に残り続けるジャンパーへ
二宮: 中西さんと同じクラスでの女子幅跳びの世界記録はどれくらい?
中西: 5メートル09です。
二宮: 中西さんの自己記録が4メートル96だから、ワールドレコードまで、たったの13センチ!
中西: はい、そうなんです。練習では5メートル10とか12を出しているので、私とアルは、もう世界記録を更新するものだと思っています。あとは風や、ファウルせずにボードにうまく乗れるか乗れないか......。
二宮: 当然、来年のロンドンパラリンピックでは金メダルを目指していると。
中西: 金メダルよりも、私は世界記録にこだわりたいですね。というのも、それが陸上という競技の魅力でもあると思うんです。例えば、私がやっていたテニスはいくら世界の大会で優勝しても、翌年になってしまえば「前回優勝者」という風に過去の話になってしまうわけですよね。でも、陸上の記録は破られない限り、永遠に世界一として残り続けることができる。だから、ずっと破られないような、破格の記録をつくるつもりです!
(おわり)
<中西麻耶(なかにし・まや)プロフィール>
1985年6月3日、大分県生まれ。高校時代はソフトテニスでインターハイに出場。卒業後、08年大分国体を目指したが、仕事中の事故でひざ下を切断した。07年から陸上を始め、翌年の北京パラリンピックでは100メートル6位、200メートル4位入賞を果たした。現在は練習拠点を米国に移し、ロサンゼルス五輪・三段跳金メダリストのアル・ジョイナーから幅跳びの指導を受け、世界記録(5m09)更新を目指している。世界ランキングは100メートル(13秒84)8位、200メートル(28秒52)6位、幅跳び(4m96)4位(いずれも日本記録)(2011年5月現在)。
(構成・斎藤寿子)
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