二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2011.07.28
第4回 アイススレッジに続け! 世界への挑戦
~"バスケバカ"の人生~(4/4)
二宮: 及川さんは現在、チームではコーチングプレーヤーということで、プレーヤーでありながら指導者として後進の育成にも努められています。日本代表でもアシスタントコーチをされている。徐々に指導者としての割合が多くなっていると思いますが、現役引退の時期について考えることもあるのでは?
及川: 今、一番葛藤していることですね。自分自身が好きなバスケットボールをやりたいということと、コーチとして若い選手を育てたいということは、僕の中では全く別ものなんです。つまり、どちらも同じくらい強い気持ちがある。だから完全に指導者になろうかどうか、迷っているんです。正直、完全に指導者に移行しなくてもいいのかなと。
二宮: 本当にバスケットが好きなんですね。
及川: はい。だから、ずっとプレーヤーとしてやっていきたいと思っているんです。日本代表としては諦めていますが、クラブチームで日本一を目指すくらいのレベルではいたいなと。
二宮: プレーヤーとしては諦めたということですが、もちろん指導者としては日本代表を指揮したいという気持ちもあるのでは?
及川: そうですね。一度はやってみたいなとは思っています。キャンプなどで関わってきた選手もたくさんいますし、彼らと一緒に世界の舞台で戦ってみたいなという気持ちはあります。
二宮: 世界の舞台と言えば、パラリンピックですが、昨年のバンクーバーパラリンピックではアイススレッジホッケー日本代表が銀メダルを獲得しました。同じチームスポーツとして、刺激を受けたのでは?
及川: これまで障害者スポーツにおいてチームスポーツでのメダルは、日本はほとんどなかったんです。個人ではいい成績を出せても、チームとなると圧倒的に世界との差が大きいというのが障害者スポーツの常でした。そういう中で、アイススレッジが銀メダルを獲った。「あぁ、チームでも世界に勝てるんだな」と思いましたね。そして、社会的環境を含めて、日本も世界のトップレベルで戦える基盤ができつつあるのかなということも感じました。「車椅子バスケットもメダルを目指す時が来たんじゃないか」と。
二宮: そのためにもジュニア世代からの育成が不可欠なのでは?
及川: そうですね。障害者の中には、障害者スポーツのことを知らずにスポーツを諦める若者も少なくないはずです。そういう子たちに、車椅子バスケットを知ってもらって、できれば選手として育てていきたいなと思っています。
漫画が巻き起こした一大ブーム
二宮: 及川さんは同じ車椅子バスケットボールでコーチングプレーヤーとして活躍している根木慎志さんと共にPwC(プライスウォーターハウスクーパース)のメンバーファーム、あらた監査法人の社員として勤めています。そこではどのような仕事をされているのでしょうか?
及川: スポーツを通して社会貢献をするというのが、僕たちの仕事です。海外にもPwCのメンバーファームの企業がありますから、今後はアメリカやカナダなどに海外遠征に行った際には、そこでの社会貢献活動をサポートしてグローバルな活動にしていきたいと考えています。
二宮: 日本では障害者アスリートの労働環境は非常に厳しい。及川さんたちに企業での活躍の場を広げてもらうと、後に続く選手たちの道も開けてくるのでは?
及川: そうですね。障害者スポーツの普及という意味でも、社内できちんと認めてもらえるような活動をしていきたいと思っています。
二宮: 普及という点では、車椅子バスケットは井上雄彦さんの漫画『リアル』のおかげで、障害者スポーツの中では最も認知度も人気も高い。漫画の影響を感じることもあるのでは?
及川: すごく大きいですね。『リアル』を読んで、車椅子バスケットを始めた健常者も多いんです。実は2002年から大学選手権が開催されているんですよ。主催団体の日本車椅子バスケットボール大学連盟には全国の13大学が加盟しています。
二宮: そのような動きは世界では珍しいのではないでしょうか?
及川: ドイツやカナダ、イギリスなどでは健常者と障害者が混ざって公式戦で戦っているようですが、学生の中で、しかも健常者だけのチームが増えているというのは、おそらく日本独特のものだと思います。せっかくこれだけの広がりを見せているわけですから、僕たちの普及活動にも、ぜひ活用させていきたいですね。
二宮: 来年はロンドンパラリンピックがありますから、車椅子バスケットを知ってもらうチャンスですね。
及川: そうですね。そのためにも、まずは今年の11月に行われるアジア・オセアニア地区予選で出場権を得られるように頑張ります。そして、ロンドンではベスト4以上を目指したいと思います!
(おわり)
<及川晋平(おいかわ・しんぺい)プロフィール>
1971年4月20日、千葉県生まれ。高校1年の冬、骨肉腫で右足を切断。1993年に千葉ホークスに入り、車椅子バスケットボールを始める。翌年、米国に留学。シアトルスーパーソニックス、フレズノレッドローラーズでプレーする。2000年にはシドニーパラリンピックに出場した。02年、車椅子バスケットボールチーム「NO EXCUSE」を立ち上げ、現在はコーチングプレーヤーとして活躍。広州2010アジアパラ競技大会では男子車椅子バスケットボール日本代表アシスタントコーチを務めた。01年から車椅子バスケットボールキャンプを主催。現在はNPO法人「Jキャンプ」で若手育成にも注力している。PwC(プライスウォーターハウスクーパース)のメンバーファームであるあらた監査法人に勤務。
(構成・斎藤寿子)
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