二宮清純の視点

2011.08.11

第２回　高まるパラリンピックへの意識

～酸いも甘いも味わった水泳人生～（2/4）

二宮：　これまでアトランタから４大会連続で出場してきたパラリンピックが、成田さんにもたらした一番大きなものは？

成田：　私がパラリンピックに出場するたびに感じたのは、日本人がパラリンピックに対して興味をもってくれるようになったことですね。メダルを獲ることで、パラリンピックの認知度がどんどん高まっていった。それが何より一番嬉しいことでした。

二宮：　最初のアトランタの頃はどんな反応だったんですか？

成田：　アトランタでは金２、銀２、銅１と５個のメダルを獲得しました。ところが、帰国して新聞記者にまず質問されたのは「パラリンピックって何ですか？」だったんです。さすがに私も驚いてしまいました。それから取材は断らないようにしました。私が取材を受けることで「パラリンピック」という言葉が１回でも多く活字になって世間の目に触れてほしいと思ったからです。他の選手の努力もあり、シドニー、アテネ、北京と毎回毎回、取り上げられる頻度が増えてきた。テレビでもパラリンピック選手を特集する番組が放映されたり......。その度に「あぁ、パラリンピックの知名度が確実に高まっているな」と感じています。

二宮：　確かにアトランタの頃に比べると、パラリンピックへの国民の意識はだいぶ変わりました。成田さんの存在は非常に大きかったと思います。また、世界で活躍する成田さんの姿を見て、後輩が育ったということも言えるでしょうね。

成田：　そう言ってもらえると嬉しいですね。でも、普段の私は楽観的でマイペースなんです。多分、もう一人、競技者としての「成田真由美」がいて、その人がものすごく負けず嫌いで、頑張ったんでしょうね。新聞やテレビで試合前の顔を見ると、自分でも「目つきが怖い」って思いますから（笑）。

"水の女王"誕生の裏に名コーチあり！

二宮：　成田さんはもともと運動神経がよくて、子どもの頃は水泳以外は得意だったんですよね。唯一苦手だった水泳で、これだけの成績を挙げているわけですから、他の競技をやっていても、メダルが獲れていたのでは？

成田：　でも、私がこれだけメダルを獲ることができたのは、やはり福元寿夫コーチのおかげなんです。コーチと出会っていなければ、今の私はありません。

二宮：　福元コーチの指導は相当厳しかったようですね。

成田：　福元コーチはロサンゼルス五輪の水球日本代表だった人で、本当に厳しいんですよ。練習中にコーチが水球のボールを持っていることがよくあるんですが、私のタイムが遅かったりすると、ビュッてそのボールが飛んでくるんです。思わずキャッチすると、「オマエ、反射神経いいなぁ」って。それが怖いのなんのって（笑）。

二宮：　成田さんは23歳の時に車の追突事故で頸椎を損傷してからは、後遺症で身体の体温調節が利かなくなった。そのために、成田さんが泳いでいる間中、福元コーチがホースで首のところに水をかけるんですよね。

成田：　はい、それには非常に感謝しています。でもね、クロールと平泳ぎの時はいいんですけど、背泳ぎの時も常に顔に水をかけられっぱなしなんです。「いつ、呼吸すればいいの!?」って言いたいんですけどね（笑）。北京の前も、練習は相当過酷でしたよ。

二宮：　でも、成田さんもそんな厳しいトレーニングによくついていきましたよね。

成田：　私って、自分から苦しい方を選んじゃう性分なんですよ。例えば、負荷をかけるために手にパドルをつけて泳ぐんですけど、途中でコーチが「パドルを取るか？」って言ってくれても、「いいえ、つけたまま泳ぎます！」なんて言っちゃうんです。

二宮：　そんな勝気な性格が成田さんの最大の強みだったんでしょうね。

成田：　そうかもしれませんが、最近では時々、コーチに「今の私があるのはコーチのおかげです」ってメールするんですよ。そうすると、コーチも「そういうふうに言ってくれて、ありがとう」って返してくれるんです。今、改めてコーチとの出会いに感謝しています。

（第３回につづく）

＜成田真由美（なりた・まゆみ）プロフィール＞
1970年８月27日、神奈川県生まれ。13歳の時に脊髄炎を発症し、両下肢麻痺となる。23歳の時に水泳を始め、そのわずか１カ月後に出場した東北身体障害者水泳大会（仙台市）で優勝。その後、アトランタ、シドニー、アテネ、北京と４大会連続でパラリンピックに出場し、金15、銀３、銅２と計20個ものメダルを獲得した。日本テレビ勤務。横浜サクラスイミング所属。国際スポーツ東京委員会理事を務め、全国各地で講演をするなど、幅広く活躍している。

（構成・斎藤寿子）

協力　MLB café TOKYO

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