二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2011.08.18
第3回 「スポーツ立国」への課題
~酸いも甘いも味わった水泳人生~(3/4)
二宮: 「スポーツ立国」を目指す日本のスポーツの新たな指針として「スポーツ基本法」が今年6月に公布されました。障害者スポーツについても触れられているという点は評価していいと思いますが、成田さんの感想はいかがでしょう?
成田: ようやく国も動いてくれたなという感じですね。でも、まだスタート地点に立っただけですから、これからが重要になってくると思います。確かにスポーツ基本法では障害者がスポーツをするという権利は認められました。でも、認められただけではスポーツはできません。障害者でもスポーツができる環境を整えてほしいと思います。
二宮: 今後、実際に国がどう動くのかということが一番重要だと。
成田: はい、その通りです。「ご自由にどうぞ」というだけで終わるのであれば、これまでと何ら変わりはありません。
障害者がいて当たり前の街づくりへ
二宮: 実際、近年の日本における障害者スポーツの環境についてはどう感じていますか?
成田: 私がパラリンピックに出始めた頃に比べれば、だいぶ環境もよくなってきたことは確かです。でも、まだ十分ではありません。例えば、せっかく障害者が使用できるスポーツ施設があっても、そこに行くまでのアクセスが悪くて利用しづらいことも少なくないんです。最近は、施設によっては最寄り駅から送迎バスを出している所もあります。しかし、本数が少なかったり、バスにスロープが付いていても運転手さんが一人で四苦八苦してサポートしてくれて何分もかけてようやく車椅子1台が乗れるというものだったり、市バスかタクシーでしか行けないような所にあったりと、結構駅から不便な所にある施設が多いんです。それじゃ、利用したくても無理ですよね。
二宮: 立派なハコだけつくって、それを利用する人のことが考えられていないと......。
成田: もったいないですよね。私は東京オリンピック・パラリンピックの招致活動にも関わっていたのですが、私がなぜ東京で開催してほしいのかというと、そうした環境が改善されるのではという希望をもっているからなんです。
二宮: 海外から障害者アスリートを呼ぶわけですから、見直されなければならない点も多いでしょうね。
成田: はい。ですから、パラリンピックを東京で開催することによって、本当の意味でバリアフリー化するのではないかと期待しているんです。
二宮: 成田さんはパラリンピックをはじめ、数多くの国際大会に出場しています。そこで感じられたことは?
成田: 例えば、海外では施設やバスにもスロープがついていることが多く、いろいろな面で日本との環境の違いを感じました。でも、私が一番感じたのは、街に障害者が溶け込んでいるか否かという点です。海外に行くと、車椅子の私に子どもが自然にウインクをしてきたりするんです。それは、普通に街の中に車椅子の人が行き来していて、それが当たり前になっているからだと思うんですね。ところが、日本では病院以外のところで車椅子を見かけることはほとんどありません。奇異な目で見られるのが嫌で、街の中に出て行けない人が多いんです。でも、私たちももっと勇気を出して外に出るべきです。そうすれば、気づいてもらえることもたくさんあるはずですし、海外のように、いて当たり前になれば、珍しがられることもないはずですから。
二宮: なるほど。まずは心のバリアフリーだと。
成田: はい、そう思います。人の気持ちが変われば、自然と環境は変わってくるはずです。2020年、東京でのパラリンピック開催を目指して、そうしたことにも取り組んでいきたいと思っています。
(第4回につづく)
<成田真由美(なりた・まゆみ)プロフィール>
1970年8月27日、神奈川県生まれ。13歳の時に脊髄炎を発症し、両下肢麻痺となる。23歳の時に水泳を始め、そのわずか1カ月後に出場した東北身体障害者水泳大会(仙台市)で優勝。その後、アトランタ、シドニー、アテネ、北京と4大会連続でパラリンピックに出場し、金15、銀3、銅2と計20個ものメダルを獲得した。日本テレビ勤務。横浜サクラスイミング所属。国際スポーツ東京委員会理事を務め、全国各地で講演をするなど、幅広く活躍している。
(構成・斎藤寿子)
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