二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2011.09.01
第1回 望まれるスポーツ義足の認可
~義肢装具士が語るスポーツのススメ~(1/5)
2012年ロンドンパラリンピックまで、いよいよあと1年と迫った。現在、世界最高峰の舞台を目指すアスリートたちは国内外の大会に出場し、凌ぎを削っている。アスリートたちの高いパフォーマンスを支えているのがコーチやトレーナー、そしてさまざまな職人たちだ。その一人が日本のスポーツ義足の先駆者である義肢装具士・臼井二美男である。20年前、「義足で走る」ことを目的に切断者スポーツクラブ「ヘルス・エンジェルス」を設立。月に一度の練習会で一般から競技者まで、老若男女の人たちに走る技術を指導する傍ら、国内外の主要大会に顔を出し、選手たちの義足のメンテナンスを行なっている。そこでパラリンピックのキーパーソンに二宮清純がインタビューを敢行。スポーツ義足の進化、義足ランナーへの思いを訊いた。
二宮: 臼井さんが勤めている財団法人鉄道弘済会「義肢装具サポートセンター」では、義足や義手などの義肢装具の製作から歩行訓練まで一貫したサポートを受けることができます。
臼井: はい。もともとは鉄道事故に遭った人のためにつくられた義肢工場で、国鉄職員の義足をつくっていたんです。今は関東近郊の病院から、病気や事故で足や腕を切断した人のための義足や義手の依頼を受けて製作しています。
二宮: 義足といっても、一人ひとり、足の形状が違うわけですから、全てが特注ということになりますね。どのくらいの価格になるのでしょう?
臼井: ヒザ下切断の場合はだいたい25~40万円。ヒザ上切断になると、ちょっと高くなって、40~70万円くらいします。
二宮: 保険は適用されるのですか?
臼井: 入院中の医療訓練用の仮義足は保険が適用されます。医療保険の場合は3割負担、労災保険の場合は自己負担なしとなります。退院後の2本目以降は、障害者自立支援法や労災法(労働者災害補償保険法)に伴って所得に応じた自己負担となります。
義足でかわる子どもの可能性
二宮: パラリンピック選手が使用しているスポーツ義足については?
臼井: これは保険対象外となっているんです。しかし、最近では子どもたちに対して、例えば学校の陸上部に入るために、どうしても必要ということで認められるケースも出てきました。
二宮: それはいい傾向ですね。最初に価格について訊ねたのは、高価だとやりたくてもできないからです。今年6月に公布された「スポーツ基本法」にも障害者のスポーツをする権利について触れられています。スポーツ義足が一般的に認められてしかるべきです。
臼井: 特に子どもたちは義足や車椅子といった補助器具の性能でパフォーマンスがガラリとかわりますからね。それにスポーツをやると精神的に強くなるんです。障害があることで、人前に出たがらない子どももたくさんいます。でも、スポーツをやり始めると、自然と外に出るようになるんですよ。そうしなければ、スポーツはできませんからね。すると、今度は友だちができます。そしたら性格も明るくなる。もう、障害者にとってスポーツはいいことづくめですよ。
二宮: スポーツには大きな力がありますね。例えば18歳未満のスポーツ義足を1割負担にするというのもひとつの手ですよね。
臼井: そうなれば、障害を負ってもスポーツを始めようという子どもたちが増えるでしょうね。子どもには無限の可能性がある。スポーツ義足にはその可能性を引き出す力があると私は思います。
(第2回につづく)
<臼井二美男(うすい・ふみお)プロフィール>
1955年、群馬県生まれ。義肢研究員・義肢装具士。28歳で財団法人鉄道弘済会「義肢装具サポートセンター」に就職し、義肢装具士としての道を歩む。1991年、切断者スポーツクラブ「ヘルス・エンジェルス」を設立。月に一度、東京都障害者総合スポーツセンター(北区)で練習会を開催し、「義足で走る」ことを指導している。鈴木徹(走り高跳び)や佐藤真海(走り幅跳び)、中西麻耶(走り幅跳び・短距離)といったパラリンピアンに競技のきっかけを与えた人物でもある。
(構成・斎藤寿子)
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