二宮清純の視点

2011.09.29

第５回　心技体を強くするスポーツ義足

～義肢装具士が語るスポーツのススメ～（5/5）

二宮：　切断者スポーツクラブ「ヘルス・エンジェルス」からは陸上以外にもパラリンピックに出場した選手はいるのでしょうか？

臼井：　はい。濱田美穂選手はシドニー大会はヨットで、北京大会はボートで出場しました。また、自転車競技で北京大会に出場した藤田征樹選手は銀メダル２つ、銅メダル１つを獲得する活躍を見せてくれました。

二宮：　幅広い競技で臼井さんがつくったスポーツ義足が使われている。やはり日本の障害者スポーツ界における臼井さんの存在は非常に大きいですね。

臼井：　ありがとうございます。実はアーチェリーにも義足の選手がいるんです。一見、アーチェリーという競技に義足はあまり関係ないと思われますが、そうでもないんですよ。50メートル先の的に矢を射るわけですが、それを自分で取りに行く際にモタモタしていると、せっかくのいい流れが止まってしまう。リズムよく次の矢を射るためにもスムーズに歩けないといけないんです。ですから、アーチェリー選手にとっても義足は結果を左右する一つのアイテムになっているんです。

二宮：　年々義足も進化していると思いますが、パラリンピックでは義足に関するレギュレーションはあるのでしょうか？

臼井：　義手や義足に関していえば、コイルバネやモーターなど外部動力は禁止されています。また手足の長さを想定する計算式もあります。

二宮：　現在のスポーツ義足は主にどんな材質のものが使われているんですか？

臼井：　ここ10年くらいはカーボンファイバーやチタン製のものが多いですね。

二宮：　スパイクや水着などと同様に、軽さや丈夫さ、そして動きやすさを追求しているわけですね。

臼井：　そうですね。しかし、どんなにいい義足をつけても、必ずしも選手のパフォーマンスが上がるわけではありません。それは他の競技も健常者も同じです。いくらいいスパイクを履いても、選手自身の努力なしでは記録を伸ばすことはできません。それと同様、パラリンピアンはみんな日々、練習を積み重ねてきている。だからこそ、どんどん障害者スポーツ全体のレベルが高くなってきているんです。

スポーツはメンタル強化に効果あり！

二宮：　陸上は屋外スポーツですから、天候によってフィールドの状態が異なります。乾いていたり、雨で濡れていたり......。競技にも影響してくるのでは？

臼井：　スパイクを着用してはいるものの、雨で滑ったりといろいろとアクシデントは起こります。でも、ある程度競技者として経験を積むと、選手は急なアクシデントにもうまく対応できるようになるんです。特に精神的な対応力は経験を積めば積むほど、増してきますね。

二宮：　障害者アスリートは過去にいろいろな苦難を乗り越えてきただけに、根底に精神的な強さが備わっているのではないでしょうか。

臼井：　はい。それがスポーツをすることでさらに強化されるんですね。義足をつけたばかりの頃は何かあるとすぐに頼ってくる子もいるんです。でも、だんだんと走れるようになってくると自信がつくんでしょうね、何事にも怖気づかなくなるんですよ。逆に他の子の面倒を見てあげるようになったり......。スポーツにはそういう人を強くする力がありますよね。
　人間誰しも自信をもつと、気持ちが外に向いたり、人と接したくなる。障害者も同じです。内にこもっていた障害者がスポーツをすることで、明るくなり、どんどん外出するようになる。そうすると、周囲の人の障害者への理解度も高まるんです。例えばスポーツを通じて健常者と障害者が交流すると、最初はお互いに緊張していますが、そのうちに自然と笑顔で接したりするようになっているんです。だから私は障害者にスポーツをすることを薦めたいんですよ。障害者にとってスポーツは生きる力を与えてくれる一つだと思うんです。

（おわり）

＜臼井二美男（うすい・ふみお）プロフィール＞
1955年、群馬県生まれ。義肢研究員・義肢装具士。28歳で財団法人鉄道弘済会「義肢装具サポートセンター」に就職し、義肢装具士としての道を歩む。1991年、切断者スポーツクラブ「ヘルス・エンジェルス」を設立。月に一度、東京都障害者総合スポーツセンター（北区）で練習会を開催し、「義足で走る」ことを指導している。鈴木徹（走り高跳び）や佐藤真海（走り幅跳び）、中西麻耶（走り幅跳び・短距離）といったパラリンピアンに競技のきっかけを与えた人物でもある。

（構成・斎藤寿子）

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