二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2011.10.20
第3回 普及と発展への道づくり
~サッカーに魅せられて~(3/4)
二宮: 石井さんにとってブラインドサッカーの魅力とは?
石井: 僕らは普段、白杖をついて周囲に何か危険なものがないかを確認しながら歩いています。でも、ピッチの中では思いっきり自由に駆け回りながら、大好きなサッカーを楽しむことができる。こんなに嬉しいことはありません。それと、ブラインドサッカーをやっていることでいろいろな人と出会い、世界が広がりました。今、人とのつながりが僕の財産になっています。
二宮: そのブラインドサッカーを今後、さらに発展させるためには何が必要でしょうか?
石井: 強化よりもまずは普及させることが大事だと思います。
二宮: 普及には底辺拡大が必須です。これまで、どういった活動をされてきたのでしょう?
石井: 2年前に全国の盲学校にリサーチを行なったところ、校庭にサッカーゴールがないという学校が少なくなかったんです。この実態には僕たちも非常に驚きました。「これじゃ、ブラインドサッカーが広がるわけがない」と。そこで希望する学校には協会からゴールを無償で提供することにしました。
二宮: 環境づくりからということになると、今後さらに費用がかかるのでは?
石井: はい、そうですね。ですから、日本ブラインドサッカー協会を、パートナー企業と一緒に独立した事業展開のできるスポーツ団体にしていきたいと考えています。
サッカーで社会貢献
二宮: 日本ブラインドサッカー協会では「スポ育」という活動をされているそうですね。
石井: 年間に150校ほどの小学校から中学校までを回っています。ブラインドサッカーを通じてコミュニケーションを図り、仲間同士の信頼関係を深めようというプロジェクトです。
二宮: なぜ"スポ育"を始めようと思ったのでしょう?
石井: 現代社会では家族や友達、地域といった人と人とのコミュニケーションが不足していると思うんです。そこで障害の有無に関係なくコミュニケーションできるブラインドサッカーを通じて何か活動ができないかなと。
二宮: 具体的にはどんな活動をされているんですか?
石井: ブラインドサッカーはアイマスクをしてやりますから、お互いに声を掛け合わないと、ゲームにならないんですね。そこでまずは一度、挑戦してみて、コミュニケーションの重要性を感じてもらうんです。そして作戦会議を開き、チームワークを高めるためにはどうすればいいかをみんなで考えます。それでもう一度、ゲームに挑戦するんです。
二宮: ゲームをやると、自然と「勝ちたい」という気持ちが芽生えてくる。ですから、どうすればうまくコミュニケーションをとれるか、子どもたちは一生懸命になるでしょうね。
石井: はい、そうなんです。最初は慣れていなくて、なかなか声が出なかったりするのですが、作戦会議を開くと、どうすればゴールを奪えるか、みんな必死になって考えるんです。作戦会議自体がいいコミュニケーションの場にもなっているかなと。最終的にはブラインドサッカーを通じて、障害者も健常者も誰もが交われる社会をつくっていければいいなと思っています。
(第4回につづく)
<石井宏幸(いしい・ひろゆき)プロフィール>
1972年4月20日、神奈川県生まれ。小学1年からサッカーを始めるも、中学2年で喘息を患い、静養を余儀なくされる。19歳の時、白内障で右目の視力を失い、28歳の時には緑内障で左目の視力を失い、全盲となる。1年半後、神戸で行なわれた講習会に参加したことをきっかけにブラインドサッカーを始める。同年5月には日本初の国際試合に出場し、韓国と対戦した。2002年、日本視覚障害者サッカー協会(現・日本ブラインドサッカー協会)が発足し、理事に就任。04年からは同協会副理事長を務める。
(構成・斎藤寿子)