二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2011.11.24
第4回 マラソンで世界の頂点へ
~進化し続けるパラリンピアン~(4/4)
二宮: 来年のロンドンパラリンピックまで、1年を切りました。トレーニングにも力が入っていると思いますが、今は1日何キロくらい走っているんですか?
土田: 日によって違いますが、多い時には40キロを、午前と午後、2回走ることもあります。また、マラソンで勝つには持久力だけでなく、アタックをかける時の瞬発力や、最後のトラックでのスピードも必要なんです。ですから、トラックで短距離を走り込むこともやっています。
二宮: 1日80キロも走ったら、腕はもうパンパンでしょうね。
土田: 確かに局所的に一番使うのは腕ですが、残存している機能をフルに使うので、もう全身が疲れますね。走り終わった後は、ボロボロの雑巾みたいですよ(笑)。
二宮: 2001年の大分国際車いすマラソンで土田さんが出した記録は公認レースでは未だ破られていません。今シーズンも既に世界選手権、東京マラソン、ボストンマラソン、ソウル国際車いすマラソンと4勝しています。特にボストンマラソンでは1時間34分06秒と、未公認ながら世界記録を更新しての5連覇達成。37歳にして、さらに進化しているあたり、まさに"鉄人"ですね。
土田: 確かに結果は残しているとは思いますが、まだこの競技を極めるというところまでは達していません。世界にはまだ一度も勝つことができていない選手もいますからね。そういう選手に勝ちたいという気持ちが向上心につながっているのだと思います。
課題は仕掛け所での技術力
二宮: ロンドンパラリンピックでの目標は?
土田: 5000メートルは04年のアテネで金メダルを獲っているので、今度はマラソンで金メダルを獲りたいと思っています。
二宮: マラソンで金メダルを獲るために必要なことは?
土田: 42.195キロという長距離を走るわけですから、もちろん持久力は必要です。でも、それだけでは勝てません。車いすマラソンは自転車競技に近い競技です。ですから、テクニックとスピードが重要になってきますね。
二宮: テクニックとは具体的にどういうところなんでしょう?
土田: 要は駆け引きのことです。車いすマラソンでは、細かいところでスピードの出し入れをして、相手と駆け引きをするんです。その部分を鍛えていかなければ、ただ速いだけでは世界で勝つことはできません。特にロンドンのコースは上り下りが多いようなので、しっかりと準備をしていかなければいけないと思っています。
二宮: 勝負の仕掛けどころが多いと?
土田: はい。他の選手も研究をして、いくつも仕掛けどころを準備してくるでしょうから、それに対応できる力も必要ですし、自分から仕掛けられるテクニックも持っていなければいけません。でも、今はまだその部分での力が十分ではないので、この1年でしっかりと身に付けて、ロンドンに臨みたいと思っています。
(おわり)
<土田和歌子(つちだ・わかこ)プロフィール>
1974年10月15日、東京都生まれ。高校2年時に交通事故で脊髄損傷を負い、車椅子生活となる。翌年の秋にアイススレッジスピードスケートの講習会に参加し、約3カ月後のリレハンメルパラリンピック(1994年)に出場。4年後の長野大会では1500メートル、1000メートルで金メダルに輝き、100メートル、500メートルでは銀メダルを獲得した。その後は陸上競技に転向し、2000年シドニー大会では車いすマラソンで銅メダル、04年アテネ大会では5000メートルで金メダル、マラソンで銀メダルを獲得した。07年にはボストンマラソンで日本人では初めて優勝する。08年北京大会は5000メートルのレース中に転倒し、再レースを断念。マラソンも棄権した。今年4月のボストンマラソンでは5連覇を達成。大分国際車いすマラソン大会では6度の優勝を誇る。サノフィ・アベンティス株式会社所属。
(構成・斎藤寿子)
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