二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2011.12.28
第5回 望まれる五輪とパラリンピックの一体化
~未来を担う子どもたちへ~(5/5)
二宮: 今年7月には「スポーツ基本法」が成立しました。これは1961年に制定された「スポーツ振興法」を半世紀ぶりに全面改正したものですが、障害者スポーツについても触れられています。問題点はいくつかありますが、それでも「障害者スポーツ」という言葉が入っているだけでも、少しは前進したのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?
乙武: そうですね。スポーツは性別や年齢、そして障害の有無に関係なく、全ての人が平等に楽しむことができるのが理想です。ですから、そのことを明文化されたというのは、とても大きな前進だと思います。しかし重要なのは、今後、それをどう実現させていくのかということですよね。
伊藤: 文部科学省では早ければ2年後にスポーツ庁を創設することが検討されています。こうした動きについては、どうお考えですか?
乙武: とても素晴らしいことだと思います。僕は小さい頃からスポーツが大好きで、自分でスポーツをやったり、あるいはスポーツライターとしての取材を通して、スポーツだからこそできることってたくさんあるなと感じてきました。スポーツは立派な文化であり、人々の人生を豊かにしてくれます。しかし、日本ではどうしても娯楽の一つというとらえ方がまだまだ色濃く残っています。スポーツ庁が創設されることによって、スポーツの意義が見直され、より振興に取り組むようになれば、日本のスポーツ界にとっては非常に大きなことですよね。
見直すべきハンデの解決法
伊藤: そこには障害者スポーツの普及、育成、強化ということも含まれてくるわけですが、どうも現段階ではスポーツ庁の取り扱いとして、障害者スポーツにおいてはトップアスリートの強化という部分のみを考えているのではないかという印象を受けます。そのほかの普及、育成という部分は厚生労働省のままということでは、障害児のスポーツ環境は変わらないのではないかと危惧しています。
乙武: なぜ強化だけをスポーツ庁で行ない、普及、育成については厚労省なのか、その理由をきちんと聞かなければ、はっきりしたことは言えませんが、普通に考えれば、普及、育成、強化すべてをスポーツ庁に移行しないと、かえって非効率のような気がしますよね。
二宮: 私もそう思います。スポーツにおいて、普及、育成、強化は1セットとして捉えるべきです。そうしなければ、かえって歪みが生じてしまいかねません。
乙武: 現在は文科省と厚労省に分けられている一般スポーツと障害者スポーツが、スポーツ庁によって一本化されるということは、日本においてはずっと求められてきたことですよね。僕はその先の希望として、いつか国民体育大会と障害者スポーツが一つの国体として開催されるようになり、そしてオリンピックとパラリンピックが一つの世界最高峰の舞台になることを願っているんです。というのも、例えば柔道には男子であれば60キロ級から100キロ超級まで、階級ごとに対戦します。それは体重差のハンデがあるから。重量級の選手と軽量級の選手とでは試合にならないからですよね。陸上では、同じ100メートルでも五体満足の選手と、例えば視覚障害の選手とではハンデがある。ならば、健常の部と視覚障害の部をつくればいいわけです。特に別々の大会に分ける必要は全くない。自らの肉体の限界に挑んで世界一を目指すという主旨は変わらないわけですから、同じ一つの大会として開催してもらいたいんです。
二宮: その意見には私も大賛成です。すぐには無理かもしれませんが、最終的にはそうあるべきです。今年の世界陸上には義足ランナー、オスカー・ピストリウスが出場しましたが、彼の挑戦こそ、まさにその第一歩として問題提起になったのではないかと思います。
乙武: ピストリウスの存在が、世界のスポーツ界を変えるきっかけになってほしいですよね。オリンピックとパラリンピックが一体化する時代が少しでも早く訪れることを願ってやみません。
(おわり)
<乙武洋匡(おとたけ・ひろただ)プロフィール>
1976年4月6日、東京都生まれ。早稲田大学在学中、先天性四肢切断という障害をもちながら生きる半生をつづった『五体不満足』が500万部を超す大ベストセラーとなる。卒業後はフリーのスポーツライターを経て、2007年から3年間、小学校教諭を務めた。現在は練馬区で保育園「まちの保育園」を運営している。著書は『W杯戦士×乙武洋匡』(文藝春秋)、『残像』(ネコ・パブリッシング)、『年中無休スタジアム』(講談社)、『だいじょうぶ3組』(講談社)、『オトことば。』(文藝春秋)など多数。
(構成・斎藤寿子)
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