二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2012.02.23
第4回 発達障害に効くスポーツの力
~排除のないスポーツ立国へ~(4/4)
伊藤: 星槎学園では、独自のカリキュラムで授業が行なわれているそうですね。例えば、どんなものがあるのでしょう?
宮澤: 週に1度、1日中、自分の好きなことができる日を設けています。サッカーボールを追いかけている子もいれば、ひたすら絵を描いている子もいる。何でもOKなんです。
伊藤: それはいいですね。子どもたちの得意分野がグングン伸びるのではないでしょうか。
宮澤: そうなんですよ。例えば、ボクシングという競技に夢中になった子がいました。元WBA世界ミニマム級チャンピオンの新井田豊です。
二宮: それはビックリです。彼は世界初挑戦でチャンピオンになりました。
宮澤: そうなんです。彼は高校時代、ボクシング部で才能を発揮して、「僕はプロになって、世界チャンピオンになるんです」と。そしたら本当に高校生でプロになりましたからね。
二宮: 17戦無敗で世界への挑戦権を手にして、見事判定勝ち。ところが、その年に引退を表明したんですよね。あれには驚きましたよ。
宮澤: 僕も彼が辞めたときには驚きましたが、その時は自分の中で完結していたんでしょうね。ただ僕は絶対にリングに戻ってくるとにらんでいました。そしたら案の定、カムバックした。とにかく自分の気持ちに素直だったんだと思います。
二宮: 新井田選手はどんな子だったんですか?
宮澤: そもそも人間誰しも何かしらのこだわりを持っているものですが、彼の場合は特に強いこだわりがあった。そういう傾向の強い人は、こだわる対象にすごい集中力を発揮したりします。それがその人の特性ですね。誰にでも得意なことや、不得意なことがあると思いますが、得意分野が周囲の関心を集めるほど秀でていれば、不得意な部分が見えにくくなるということです。
二宮: 確かに「天才」と呼ばれる人は、他の人から見れば奇異な言動が多いかもしれませんね。芸術家にはその手の人たちが少なくありません。
宮澤: そうそう、その通りです。でも、それはそれほど特別なことではないんです。誰にでも得意なこと不得意なことがあり、得意なことを活かせる何かに出合えるかどうかなんです。
サッカー場に込められた思い
伊藤: 星槎学園にはFIFA公認の人工芝が敷き詰められた、素晴らしいサッカー場があります。これをつくられたのは何故ですか?
宮澤: 子どもたちに約束してしまったんですよ、「本物のサッカー場をつくってやる」って。まぁ、6年ほどかかりましたけどね。でも、何年経っても、子どもたちとの約束は守らなければいけません。それに、これだけ時間をかけてようやく手に入れたものだからこそ、子どもたちも大切に使ってくれると思うんです。
二宮: 子どもの頃から「本物」に触れるというのは大事なことですよね。
宮澤: はい、そう思います。それと、もう一つ理由があります。発達障害を持っている子どもたちにとって、いい刺激になればいいなと。自分と同じような年齢の子がサッカーを楽しそうにやっているのを間近で見ることによって、「自分もやってみたい」という気持ちになった子たちが、思いっきりボールを触ったり、蹴ったりできるようなところが欲しいと思ったんです。
二宮: スポーツが担う役割は大きそうですね。
宮澤: 非常に大きいですよ。発達障害というと、薬を処方する医師も少なくありませんが、それは大間違い。「あなたは病気なんだから、薬を飲んで家の中にいなさい」では治るものも治らない。そうではなく、自然の中で思いきり走ったり、跳んだりすることの方が重要です。人間にとって、スポーツの力は非常に大きいんです。
(おわり)
<宮澤保夫(みやざわ・やすお)プロフィール>
1949年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部中退後、72年に塾を開講。アパートの一室で2人の生徒からスタートした塾はやがて規模を拡大し、85年、現在の星槎学園の前身、宮澤学園を設立。不登校などの子どもたちを受け入れ、個々のニーズにあった教育を施す。現在は、星槎グループとして幼稚園から大学まで展開し、独特のカリキュラムで子どもたちに寄り添った教育が行なわれている。2010年には教育と医療の分野で世界の子どもたちをサポートする「一般財団法人世界こども財団」を設立した。
星槎グループホームページ http://www.seisagroup.jp/
(構成・斎藤寿子)
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