二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2012.04.19
第3回 タッパーの心得
~知られざるタッピング技術と重要性~(3/4)
二宮: タッピングは見た目以上に難しそうですね。
寺西: 選手との呼吸が大事になりますね。0.2秒でもタイミングが遅いと、壁に衝突してしまいますし、かといって早ければいいというものでもありません。特にターンの時はあまり早いと、壁との距離がありすぎて、うまくターンすることができませんからね。
二宮: 結構、スピードも出ていますし、タイミングを計るのは至難の業ですね。
寺西: とにかく日頃からの練習で、各選手のそれぞれのタイミングをつかむことがタッパーには欠かせないんです。
二宮: タッピングのコツは?
寺西: 僕は選手と一緒に泳いでいるつもりで見ていますね。プールサイドで単にタッピング棒を持って待ち構えているのではなく、スタートとともに選手の中に入り込んで自分自身も泳いでいるんです。だから、タッチするタイミングが「ここだ」ってわかるんです。
二宮: タイミングが合わなくて、あわててもう一度タッチすることはないのでしょうか?
寺西: タッピングは原則1回しかタッチすることができないんです。ただ、どうしても1回目の試みでうまく選手の体にタッピング棒が当たらず、選手の安全を確保するためにという理由の場合は2回目まではOKとなっています。
二宮: 故意に2回はダメだと?
寺西: はい。タッパーはあくまでも選手の"眼"という役割ということで、タッチすることを許されているんですね。しかし、故意に2回以上タッチしてしまうと、それはもう他人からの意図的な"行為"とみなされ、選手が失格になってしまうんです。
タッパーにとって口は"災いのもと"
二宮: 選手と一緒になって泳いでいる感覚でいるわけですから、優勝したり、自己ベストが出たりしたら、自分のことのように嬉しいでしょうね。
寺西: それはもう、本当に嬉しいですよ。
二宮: でも、声は出せない。
寺西: そうなんです。選手と一緒に喜びたいのはやまやまなのですが、タッパーは決して声を出してはいけないんです。先ほども言いましたが、タッパーはあくまでも選手の"眼"ですから、プールサイドで話すことは一切禁止されているんです。
二宮: アドバイスはNGだとしても、「やった!」とか、感情の発露もだめなんでしょうか?
寺西: はい、レースが正式に終わるまでは絶対にダメです。少しでも声を出したら、選手が失格になってしまうんです。
二宮: でも、パラリンピックのような大舞台で金メダルが獲れたら、無意識に出てしまいますよね。
寺西: もう、必死に耐えますよ。唇が動いたら疑われてしまいますから、真一文字に結んで、でも手だけは小さくガッツポーズみたいな(笑)。河合純一がアテネで金メダル(50メートル自由形)を獲った時には、まさにそんな感じでしたね。
(第4回につづく)
<寺西真人(てらにし・まさと)プロフィール>
1959年7月26日、東京生まれ。筑波大学附属視覚特別支援学校教諭。日本身体障害水泳連盟競泳技術委員。大学卒業後、母校の体育非常勤講師、筑波大学附属盲学校(現・筑波大学附属視覚特別支援学校)の非常勤講師を経て、1989年同校教諭となる。自ら水泳部を立ち上げ、河合純一、酒井喜和、秋山里奈の3人のパラリンピックメダリストを育てた。
(構成・斎藤寿子)
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