二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2012.04.26
第4回 12メートルプールの恩恵
~知られざるタッピング技術と重要性~(4/4)
二宮: 寺西さんはこれまで5人のパラリンピアン、そして3人のメダリストを育ててきたわけですが、学校ではどんな練習をしたのですか?
寺西: 実は学校のプールは12メートルしかないんです。だから、なかなか正確なタイムを把握することはできないんです。
二宮: えっ!? 12メートル? それにしても不思議な長さですね。
寺西: もともとは防火用水池だったところをプールとして利用しているんです。せめて12.5メートルあれば、タイムの比較もできるんですけどね(笑)。
二宮: そのような恵まれているとは言えない環境でメダリストを3人も輩出されたなんて、すごいですね。
寺西: ありがとうございます。いろいろと工夫しながら練習を行なっています。
二宮: 結果も出されているわけですし、せめて25メートルプールが欲しいとは思いませんか?
寺西: もちろん、思いますよ。練習のメニューも組み立てやすいでしょうし、何より頑張っている生徒を見ていると、大きなプールで思い切り泳がせてあげたいと思います。でも、環境がよければ速くなれるかというと、決してそうとばかりは言えないと思うんです。普通、オリンピック選手でも練習では50メートルを、35~45秒サークルで泳ぐんです。ところが、うちのプールは12メートルしかありませんから、7秒泳いで3秒休憩と、10秒サークルで泳ぐんです。これを1日240本とか、もうケタ違いの本数を泳ぐわけです。
二宮: つまり、陸上で言えば、短距離ダッシュを繰り返していると?
寺西: はい、そうです。そういう練習で鍛えた体力や筋力が、世界で戦える泳ぎを生み出している。何事も工夫次第なのかなと思いますね。
指導者としての挑戦
二宮: 4カ月後にはロンドンパラリンピックが開催されますが、指導者としての寺西さんの目標は?
寺西: これまでの自分を超えることですね。よく「河合は特別だからね」と言われるんです。つまり、河合がメダルを量産できたのは、僕の指導は全く関係ないと。正直、そう言われると「僕の存在は何なの?」と悲しくなります。
二宮: どんなに優れた能力を持っている選手でも、やはり指導者との信頼関係なくして成功することはないと?
寺西: もちろん、河合は全盲になる前から水泳をやっていたわけですから、最初から障害者の中では抜きんでた存在でした。僕自身も一生懸命に勉強して、彼を指導してきた。「オレが育ててやったんだ」なんてことを言うつもりは全くありませんが、少なくとも彼と二人三脚でやってきたという自負はあります。しかし、周囲の一部の方ですが、そうは見てくれないんです。だったら、河合を超える選手を育てようと。それが過去の僕自身への挑戦でもあると思っています。
(おわり)
<寺西真人(てらにし・まさと)プロフィール>
1959年7月26日、東京生まれ。筑波大学附属視覚特別支援学校教諭。日本身体障害水泳連盟競泳技術委員。大学卒業後、母校の体育非常勤講師、筑波大学附属盲学校(現・筑波大学附属視覚特別支援学校)の非常勤講師を経て、1989年同校教諭となる。自ら水泳部を立ち上げ、河合純一、酒井喜和、秋山里奈の3人のパラリンピックメダリストを育てた。
(構成・斎藤寿子)
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