二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2012.06.28
第4回 カーボン時代の到来
~"異端児"から"世界トップメーカー"へ~(4/4)
二宮: 2カ月後にはいよいよロンドンパラリンピックが開幕しますが、陸上用レーサーは4年前の北京の時とはどの部分が進化しているのでしょうか?
石井: 今回はメインフレームの断面の形状ではなく、素材そのものが変わりました。これまではアルミを使用していたのですが、さらなる強度と軽量化を実現させるためにカーボン製のフレームを他社と共同開発したんです。
小澤: 実はメインフレームだけでなく、全面にカーボンを採用したレーサーを開発・製造しているメーカーもあるのですが、切断やプレス加工が容易にできるアルミとは異なり、高価な型を各選手のレーサーに合わせた形にしなければなりませんので、費用の面で競技者への負担は相当なものになります。そこで、弊社ではメインフレームだけをカーボンにして、その他の部分は従来通り競技者に合わせてつくれるようにアルミを使ったハイブリッドにしました。メインフレームも、カーボンの厚みを変えることによって、強度やしなりの度合いを変えることができます。
競技者あっての技術開発
二宮: いよいよ、時代はカーボンですね。実際にカーボン製のレーサーで走った選手はどんな手応えをつかんでいるのでしょう?
石井: 6月2、3日に行なわれたロンドンパラリンピックの選考会を兼ねたジャパンパラリンピックでは、弊社のカーボン製レーサーで走った花岡伸和選手が、800メートル、1500メートルで優勝し、代表に内定しました。
小澤: 花岡選手は、ジャパンパラリンピック前から手応えをつかんでいました。今年4月の長野車いすマラソンで初めてカーボン製のレーサーでレースに臨んだんです。同大会では長野を練習拠点としている選手が地の利をいかすこともあって強いんです。その選手に過去には3分以上離されることもあった花岡選手ですが、今年はわずか1秒差での2位に入りました。スピードの上げ下げや、コーナリングでの操作性についても好感触を得ていたようです。とはいえ、長野マラソンやジャパンパラリンピックでの結果は、花岡さんが努力して磨き上げてきた技と、鍛え上げてきた身体あってこそのものであることは間違いありません。
二宮: 今後、どのように進化していくのでしょう?
石井: これまでは強度の面に重点が置かれていましたが、今後はしなりの面で進化していくでしょうね。漕ぎやすく、疲れにくくするには、車椅子にしなりが必要なんです。しかし、アルミでしなりを求めていくと割れたり、折れたりしやすくなってしまうんです。その点、カーボンはアルミ以上のしなりを求めることが可能です。
二宮: 4年後のリオではどんなレーサーが開発されているのか、今から楽しみです。
石井: そうですね。ただ、あまり技術開発ばかりが先行してしまって、それに乗る競技者がついてこれないというのでは、問題です。先ほども言ったように、全てカーボンにすればいいのかと言うと、もちろん性能はよくなるでしょうが、あまりにも高額になってしまっては競技者が購入することができません。それでは本末転倒ですからね。あくまでも競技者のニーズがあってのもの。弊社ではこれからも競技者からの視点を大事にした技術開発をしていきたいと思っています。
(おわり)
<石井重行(いしい・しげゆき)プロフィール>
1948年、千葉県生まれ。71年、ヤマハ発動機に入社。76年、28歳の時に独立し、オートバイ販売会社「スポーツショップ イシイ」を設立した。ライダー、ジャーナリストとしても活躍。84年、オートバイのテスト走行時、転倒事故で脊髄を損傷。下半身不随となり、車椅子生活となる。88年、「オーエックスエンジニアリング」を設立し、翌年には車椅子事業部を設置。車椅子の開発・製造に着手し、92年には初号機を販売する。翌年には車いすテニス用、車椅子バスケットボール用、95年には、陸上競技用のレーサーを販売。アトランタパラリンピック以来、同社の車椅子で獲得したメダルは、計90個にのぼる。
オーエックスグループ http://www.oxgroup.co.jp/
<小澤徹(おざわ・とおる)プロフィール>
オーエックスグループ会社のレブに所属。エンジニアとして、競技用車椅子を開発・製造している。
(構成・斎藤寿子)
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