二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2012.07.12
第2回 スピーディなバスケを目指して
~世界ベスト4へ"ハヤテジャパン"~(2/4)
二宮: 岩佐ヘッドコーチは、宮城県の車椅子バスケットボールチーム「宮城MAX」発足当初から指揮を執ってきました。今年5月の日本選手権では4連覇に導いています。これまで、どういうバスケットを目指してきたのでしょうか?
岩佐: 車椅子バスケットでは、自分たちのシュートが入ると、全員一目散に自陣のコートに戻って、ディフェンスのかたちを整えるというのが主でした。しかし、私はどうしても一般のバスケットのようなスピーディなバスケットを目指したかったんです。そこで、戻らずにすぐに相手にプレッシャーをかけにいく「プレスディフェンス」を選手に教えました。これはそれまでの車椅子バスケットでは、使われていなかった戦術ですね。
二宮: より攻撃的なディフェンスということでしょうか?
岩佐: そうです。ボールを多くとって、オフェンスの機会を増やそうということです。
二宮: 得点の可能性も高くなると?
岩佐: はい。私が車椅子バスケットに携わるようになった当初は、30点、40点というスコアの試合がほとんどだったんです。しかし、今では一般のバスケットと同じ70点、80点というのが当たり前になっています。
二宮: ただ、「プレスディフェンス」というのは、体力的な消耗が大きいですよね。
岩佐: はい、すごくハードですよ。休む暇もなく、すぐにオフェンスに当たりに行かなければいけませんからね。そして、奪い取ったら、またすぐに攻撃に移りますから。とにかく、忙しいバスケットです(笑)。
二宮: 相当、選手は走り込んでいるんでしょうね。
岩佐: そうですね。ただ、単に走るだけの練習はしていないんです。必ずボールを使いながら走らせています。というのも、私はハンドリングを重視していますので、四六時中ボールを触らせるようにしているんです。ですから、ドリブルやパスをしながら走るというトレーニングをさせています。
勝負を左右する"バックピック"
二宮: 宮城MAXでやってきたことが、「ハヤテジャパン」の基盤にもなっているわけですね。
岩佐: はい。ボールを奪ったら、すぐに攻撃に転じて相手のディフェンスが整わないうちに攻めるという「アーリーオフェンス」が「ハヤテジャパン」の柱になっています。速く攻めることができれば、3-2、2-1といった人数的に有利になるようなアウトナンバーの状況をつくることができるんです。
二宮: なるほど。そうした日本に優位な状況をつくることが、体格やパワーの面で劣る日本が、世界の強豪を相手にする時には非常に重要となるわけですね。
岩佐: はい。それともう一つ、車椅子バスケットでは、よく「バックピック」という戦術が使われるんです。相手のシュートが入ったら、すぐに自陣のコートに戻ろうとする選手の1人を、1人もしくは2人で止めに行くんです。よくあるのは「ツーバックピック」と言って、障害が軽度で車椅子バスケット特有の持ち点が4~4.5点のハイポインターと、逆に障害が重度で持ち点が1~1.5点のローポインターの2人が、相手の1人の選手に当たりに行きます。その時点で反対側のコートに戻れているのは、オフェンス3人、ディフェンス4人ですよね。当然、オフェンスは人数的に不利な状況ですから攻めることができないので、3人でパスを回すんです。オフェンスは24秒以内にシュートを放たなければいけませんから、残り15秒くらいになったら、バックピックをしていたローポインターがオフェンスに加わりに来るんです。そして、そのローポインターがディフェンダーをガードして空けたスペースに、最後にハイポインターが走りこんできて、スッと入ってしまうんですね。その時点で5-4という状況がつくられるわけです。そして、できるだけゴールネットの近いところでシュートを打つと。
二宮: 車椅子バスケットならではの戦術ですね。
岩佐: 実は、私はあまりこのバックピックを指導するのは得意ではないんです(笑)。ですから宮城MAXではあまり使いません。ただ、世界ではもう主流になっていて、2010年の世界選手権ではほとんどのチームがやっていた中、日本はそれに随分と苦しめられました。
二宮: バックピック対策も必要になってくると?
岩佐: はい。そこで世界選手権後にバックピックを含めたアウトナンバーの攻めが得意な「NO EXCUSE」の及川晋平をコーチに入れました。彼が熟知しているバックピック対策、そして私がやってきたアーリーオフェンスをうまく融合させたチームが、今の「ハヤテジャパン」です。
(第3回につづく)
<岩佐義明(いわさ・よしあき)プロフィール>
1958年1月6日、宮城県生まれ。大学までバスケットボール選手として活躍した。卒業後、宮城県の外郭団体職員として勤務。1989年、「宮城クラブ」を前身とした「宮城MAX」発足当初からヘッドコーチを務める。今年の日本選手権ではチームを4連覇に導いた。2008年北京パラリンピックでは女子日本代表を指揮し、ベスト4入り。09年、男子日本代表ヘッドコーチに就任。ロンドンパラリンピックでは女子に続いて初のベスト4進出を目指す。
宮城MAX http://miyagimax.com/
(構成・斎藤寿子)
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