二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2012.08.09
第2回 10年目での習得
~震災がもたらした出会い~(2/4)
二宮: 小川さんの指導を受けての半谷さんの最初の感想は?
半谷: これまでは、指導はしてもらってはいましたが、なんとなく自己流でやってきたところがありました。一つひとつの技をしっかりと教えてもらったことはなかったんです。今思えば、大内刈りにしろ、小内刈りにしろ、足技についてはどこに力を入れていいのかすら、わかっていませんでした。でも、小川先生にはきちんとイメージを持ちやすいような指導をしていただいているので、全てが勉強になります。
二宮: イメージが持ちやすいとは?
半谷: 体をどういうふうに使うかというイメージです。柔道を始めて10年目にして、新しく覚えることがたくさんありました。
二宮: 実際にはどういうふうに体の使い方を教えているんでしょうか?
小川: ビデオを見せたり私自身がやって手本を示すというわけにはいきませんし、言葉だけで「ああしろ、こうしろ」と言ってもイメージはわかないでしょうから、最初はどうしようかなと悩みました。そこで半谷自身に技をやらせながら、例えば背中をポンと叩いたりして力を入れるポイントを教えました。
二宮: そういう指導ならわかりやすいですね。
半谷: はい。今までそういう指導を受けたことがなかったので、とてもありがたいです。
"目"となる組み手からの情報
二宮: 寝技に関しては?
小川: 寝技もやることはやっていましたが、正直言って、試合で武器になるほどのレベルではありませんでした。これまでは練習環境も整っていなかったでしょうし、細かい指導は受けてこなかったのだと思います。
二宮: 富士山で言えば、まだ2合目か3合目あたりだと。
小川: はい、実際それくらいだと思います。よく自分でここまでやってきたなと感心するくらいですよ。
二宮: これからもっと強くなる要素がたくさんありそうですね。
小川: ありますね。今、ようやく柔道が何かということがわかってきたところですから(笑)。これまでは何となくでやってきたと思いますが、今では相手がここにいたら、どうやって投げるかというところを、少しずつですが、きちんと考えられるようになってきています。
二宮: 半谷さんは相手が見えない中で、どうやって相手の動きを感じているのですか?
半谷: 呼吸もありますが、力の入れ具合で微妙な動きが手から伝わってくるんです。例えば、技をかけようとして力を入れる瞬間、必ず体重が左に乗るとか、背負い投げにいくときには一度、体が右に傾くとか......。
二宮: なるほど。組み手で微妙な動きがわかるんですね。
半谷: はい。そういう中で、技の掛け合いを行なっています。
(第3回につづく)
<半谷静香(はんがい・しずか)プロフィール>
1988年7月23日、福島県生まれ。生まれつき弱視の障害がある。中学1年から柔道を始め、大学1年時に初めて出場した全国視覚障害者柔道選手権で優勝。昨年3月の東日本大震災で被災し、行き場を失ったところへ手を差しのべてくれた「小川道場」に入門した。小川直也氏に師事し、稽古に励んでいる。ロンドンパラリンピックでは女子52キロ級代表として、初めてのパラリンピックに挑む。
<小川直也(おがわ・なおや)プロフィール>
1968年3月31日、東京都生まれ。高校1年から柔道を始め、明治大学1年時には全日本学生柔道選手権で優勝。史上2人目の1年生王者となる。2年時には史上最年少で柔道世界選手権無差別級を制覇。4年時には同大会で95キロ超級、無差別級の2階級制覇を達成した。卒業後、90年にJRA(日本中央競馬会)に入会。92年バルセロナ五輪95キロ超級で銀メダルを獲得した。96年アトランタ五輪では同級5位。翌年にはプロ格闘家に転向した。現在はプロレスラーとして活躍する傍ら、2006年に設立した「小川道場」で指導を行なっている。
小川道場 http://www.ogawadojo.com/
(構成・斎藤寿子)
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