二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2012.09.03
パラリンピック特別企画[中編]
8月29日に開幕したロンドンパラリンピック。期間中、「二宮清純の視点」ではパラリンピック特別企画〔全3回〕として、これまで登場した選手・ヘッドコーチ・関係者の方々のインタビューからロンドンパラリンピックにかける思いをピックアップし、紹介しています。
廣道純選手/車いす陸上
〔「日本人初のプロ車椅子ランナー」(2012年5月)より〕
二宮: いよいよロンドンパラリンピックが近づいてきましたね。廣道さんはシドニー、アテネ、北京に続いての4大会目となりますが、いかがですか?
廣道: シドニーでは4種目、アテネでは6種目、北京では4種目と、これまでは可能な限りの種目に出場していたんです。それでも800メートルでシドニーでは銀メダル、アテネで銅メダルと結果を残せたのですが、北京ではメダルを逃してしまった。だから、今回のロンドンは2種目か3種目に絞っていきます。
二宮: 本命の種目は?
廣道: 800メートルです。まだ獲っていない金メダルを狙っていきます!
二宮: 800メートルでは、世界でどのくらいの位置にいるんですか?
廣道: 世界ランキングは5位です。
二宮: 上に4人いると。そうすると、この4人を追い抜かないと金メダルには到達しないということですね。
廣道: 自己タイムだけで言うとそうなのですが、レースの展開次第では、どの選手がトップに立ってもおかしくありません。
勝敗のカギは競輪並みの駆け引き
二宮: 800メートルはトラック2周ですから、駆け引きといっても、ポイントがたくさんあるわけではありませんよね。
廣道: はい。だからこそ、難しいんです。まずはスタートした時のポジション取りが大事になってきます。最初の100メートルで何番手に位置するかで、その後のレースに大きく影響するんです。それからラスト1周となった時に、どのポジションにいるかで、早くもそこから仕掛ける選手もいれば、残り300メートルのところのバックストレートで出てくる選手もいる。そして残り150メートル、3コーナーあたりで、かわしにいく選手もいますね。自分がどこで仕掛けるかは、レース展開を見極めながら、その時の自分のスピードやスタミナを考えて決めるんです。
二宮: なるほど。ここぞという時の勝負どころまで、ある程度、スタミナを温存しておかなければいけませんね。
廣道: そうですね。他の選手につられて、スタートからダッシュして必死に食らいついていくと、一番大事なところでスタミナ切れの状態になってしまいます。
二宮: "捲り"や"差し"があるというのは、まるで競輪のようですね。
廣道: もう完全に競輪と同じ駆け引きですよ。わずか2周の中で、先行逃げ切りを狙う選手もいれば、2番手、3番手にいて、最後に差しに行く選手もいます。ただ、競技用車椅子は長いですから、あまり後方にいると、ラストの直線で交わしに行こうとしても、一気に前に出るのは難しい。だからこそ、ポジション取りが重要なんです。
廣道純選手の競技日程
●男子 5000m T54
予選 8月31日(金)
準決勝 9月1日(土)
決勝 9月2日(日)
●男子 400m T53
予選 9月2日(日)
決勝 9月2日(日)【日本時間9月3日】
●男子 800m T53
予選 9月4日(火)
決勝 9月5日(水)【日本時間9月6日】
●男子 200m T53
予選 9月7日(金)
決勝 9月7日(金)【日本時間9月8日】
第1回 ロンドンでは悲願の金メダルを!
第2回 "一人身の自由さ"に魅かれた陸上
第3回 シドニー銀メダルに導いた"悔しさ"
第4回 ロンドンで目指すは金メダル!
国枝慎吾選手/車いすテニス
〔「世界のトップであり続けるために」(2011年3月)より〕
二宮: さて、今年はロンドンパラリンピックの前年ということで、国枝選手にとっては大事なシーズンとなります。どのようなテーマをもってこの1年を過ごそうと思っていますか?
国枝: 来年のロンドンでは、「これまでやってきたことをやり尽くした!」と思えるようにしたいんです。そう思えるくらいまでのレベルに達するためには、サーブが一番の強化ポイントだと考えています。
二宮: 一発で決めるくらいのパワーサーブを身につけるということでしょうか?
国枝: というよりも、細かくコースの打ち分けができるようなコントロールを身につけたいんです。相手が嫌がるようなコースに打って、リターンのボールで仕留めるというのが理想です。
二宮: サーブの精度を上げるためには、何が必要でしょう?
国枝: いかに体幹を鍛えるかが重要になりますので、そこを意識したトレーニングを行なっています。体幹を強化すれば、ケガの予防にもつながってきますので、来年のロンドンパラリンピックでは万全の体調で臨みたいと思っています。
二宮: 他に工夫している点は?
国枝: 例えば、サーブを打つ時の車いすの向きを少し変えただけで、打球の角度や回転が結構変わるんです。体の強さと相談しながら、どれだけひねるかといったところも関係してくる。まだまだ研究の余地は十分にあります。
二宮: 国枝さんほどのトップレベルでも、まだ研究の余地があると?
国枝: ありますね。僕自身、まだ未熟だと思っていますし、試合には勝っていますけど、実は苦手なところもある。これは誰にも言えませんけどね(笑)。そういったところも今後、磨いていけたらなと思っています。
国枝慎吾選手の競技日程
●男子シングルス
準決勝 9月6日(木)
決勝 9月8日(土)
●男子ダブルス
準決勝 9月6日(木)
決勝 9月7日(金)
第1回 原点回帰となった敗戦
第2回 3年間の思いが詰まった107勝
第3回 目指すは10年連続世界王者
第4回 肌で感じる環境の変化
第5回 ロンドンへのシナリオ
丸山弘道コーチ/車いすテニス男子日本代表
〔「車いすテニス・コーチングの奥義」(2012年1月)より〕
二宮: ストローク一点張りだった国枝選手が、サーブを修正しようと思ったきっかけは何だったのでしょう?
丸山: 国枝選手がランキングが7位か8位くらいの時、当時の世界ランキング1位だったデビッド・ホール(豪州)に何度対戦しても、勝てずにいたんです。それでその選手に3敗目を喫した時に「コーチ、どうして彼には勝てないんだろう?」と聞いてきたんです。それで私は「サーブが遅すぎるからだよ」と。正直、どうしようもないというくらい遅かったんです。原因は単純で、打ち方が悪かっただけのこと。打ち方さえ直せば、グンとよくなることは明らかでした。
二宮: 現在のテニスはサーブが非常に重要で、スピードやコースなど、あらゆる面を考慮してサーブで攻めるというのは常識となっています。車いすテニスもそういう傾向があると思いますが、以前はどうだったのでしょう?
丸山: 今は自分のサービスゲームをキープするのは当然で、相手のサービスゲームをいかにブレークするかが勝敗のカギを握っています。しかし、当時の車いすテニスでは、ブレークが、いわゆるキープを意味していたんです。というのも、なかなかサーブで攻めることができなかったので、サービスゲームをキープできる選手がなかなかいなかった。だからこそ、キープできる選手が世界のトップにいくことができていたんです。国枝選手はブレークはお手のものでしたから、サーブを武器にしてキープできるようになれば、世界のトッププレーヤーにも勝てることは目に見えてわかっていました。「サーブさえ直せば、絶対に勝てるよ」と言うと、ようやく「わかりました、サーブをやります」と。一度ついたクセはなかなか直りませんから、時間はかかりましたが、打ち方を変えたことで、国枝選手のサーブはグンとよくなりましたね。7か月後の05年の全米オープンで、国枝選手はデビッドを初めて破ったのですが、その試合がデビッドに引退の覚悟を決めさせたんです。
車いすテニス競技日程
9月1日(土)~9月8日(土)の日程で男女及びクァード(重度障害クラス)のシングルス・ダブルスを実施。日本代表は国枝慎吾選手をはじめ男女及びクァード合わせて9名の選手が出場。
第1回 "出会い"と"発見"の連続
第2回 一目ぼれだった国枝慎吾との出会い
第3回 選手の身体を知ることの大切さ
第4回 指導者に必要な2つの"たんきゅうしん"
(後編につづく)