二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2012.12.06
第1回 世界一のスタジアムづくり
~日本のスポーツ振興の歩み~(1/4)
開催都市が決定する国際オリンピック委員会総会を来年9月に控えた2020年東京五輪・パラリンピック招致や、2019年にアジア初の開催となるラグビーW杯に向けた動きが活発化してきている。そこで今回は、2大会のメイン会場として改築計画が進んでいる国立競技場を運営する独立行政法人日本スポーツ振興センターの河野一郎理事長に話を聞いた。
二宮: 現在、日本国内は16日に行なわれる衆議院議員総選挙の話題でもちきりです。同日には東京都知事選もあり、注目の一つとして東京五輪・パラリンピックの招致活動が今後、どうなっていくかということが挙げられます。そんな中、11月15日にはメイン会場として改築計画が進んでいる国立競技場の基本構想デザイン案を発表しました。
河野: 「国際デザイン・コンクール」で国立競技場の改築に向けたデザイン案を公募したところ、国内外から計46作品の応募がありました。その中で建築家の安藤忠雄氏が委員長を務める審査委員会で審査した結果、英国の建築設計事務所ザハ・ハディド・アーキテクトの作品が最優秀賞に選ばれました。代表者のザハ・ハディド氏はイラク出身の女性建築家で、2004年には"建築界のノーベル賞"と言われるプリッカー賞を女性で初めて受賞。今年のロンドン五輪・パラリンピックでは競泳会場となった「アクアティクス・センター」を設計しています。
二宮: 解体費を除いた総工事費には約1300億円が見込まれ、8万人収容のスタジアムが建設されるという、まさに国を揚げてのビッグプロジェクトですね。
河野: 私としては「世界一のスタジアム」をつくりたいと思っています。ラグビーW杯や東京五輪・パラリンピック後にはスポーツだけでなく、他の文化イベントにも使用できるよう、雨天にも対応した全天候型スタジアムの改築計画を進めています。
モデルは「スタッド・ド・フランス」
二宮: 世界にはさまざまなスタジアムがありますが、モデルにしているスタジアムは?
河野: 例えば、1998年に開催されたサッカーのフランスW杯のメイン会場となったフランス最大のスタジアム「スタッド・ド・フランス」ですね。8万人収容で、座席の一部が可動式となっているので、サッカーだけでなく他の競技にも対応することができるようにつくられています。03年には世界陸上が行なわれ、07年ラグビーW杯の際には決勝戦の会場となりました。現在のところ、サッカーW杯、ラグビーW杯、世界陸上の競技会場として実績がある唯一のスタジアムです。また、ロックコンサートが開かれるなど他の文化的施設としても使用されていますから、非常に参考になると思っています。
二宮: 特にトラックが必要な陸上は、サッカーやラグビーと同じようにというわけにはいきません。ピッチのすぐ近くにまである座席をどうするかが問題となります。
河野: そこなんです。ですから、一部を可動式座席にしている「スタッド・ド・フランス」のように、何らかの工夫が必要となります。その方法については、現在検討中です。「スタッド・ド・フランス」のように座席だけを動かすのがいいのか、それともスタジアム全体の構造を変える方がいいのか......。難しい問題ですけど、やはり陸上にも対応しなければ「ナショナルスタジアム」とは言えませんからね。
伊藤: 例えば、車いすの人を含む家族が来場したとき、車いす席はこちら、その他の方はこちら、と分けられてしまうことがあります。みんなでわいわいと楽しんで観戦したいですよね。そのための稼働式座席もあったらいいなと思います。
二宮: しかし、そうゆっくりともしていられない状況になってきましたね。東京五輪・パラリンピックについては招致の最中ですが、とにかく19年にはラグビーW杯が行なわれることは決まっている。竣工はいつ頃を予定しているのでしょうか?
河野: 18年度内、つまり19年3月には完成させることを目指しています。
(第2回につづく)
<河野一郎(こうの・いちろう)プロフィール>
1946年11月6日、東京都生まれ。医学博士。国立大学法人筑波大学学長特別補佐・特命教授。1996年ラグビーワールドカップでの日本ラグビー協会の強化推進本部長として日本代表の団長、1988年ソウルオリンピックから2008年北京オリンピックまで日本選手団の本部ドクター、本部役員などを歴任。2016年東京五輪招致委員会事務総長などを経て、2011年10月に独立行政法人日本スポーツ振興センター理事長に就任した。日本スポーツ界の医・科学・情報の中心的役割を担っている。
日本スポーツ振興センター http://www.naash.go.jp/
(構成・斎藤寿子)
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