二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2012.12.20
第3回 2016年招致活動で得た絆
~日本のスポーツ振興の歩み~(3/4)
二宮: 2016年の五輪・パラリンピックの開催都市に選ばれたのは、ブラジルのリオデジャネイロでした。しかし、落選したとはいえ、日本のプレゼンテーションも良かった。特に印象的だったのが、パラリンピック競泳の河合純一さん。全盲である彼の「僕は目が見えませんが、心の目で東京五輪とパラリンピックが開かれている光景が見えます」という言葉には心を打たれました。
河野: あのスピーチは評価委員会からも高い評価を受けました。それに落選はしましたが、一番に得られたのは、あの招致活動でオリンピアンとパラリンピアンの距離が近づいたこと。とてもいい雰囲気の中でプレゼンテーションも行なうことができたのです。
二宮: 確かあの時、「オリンピック・パラリンピック招致委員会」と、初めて「パラリンピック」という言葉が入りましたよね。
伊藤: あるパラリンピアンが「招致委員会の名称にパラリンピックを入れることに抵抗感を抱く人もいたけれど、その時に尽力いただいたのが河野さんだった」と言っていました。河野さんのリーダーシップはすごかったと。
河野: いえいえ、私は大したことはしていません。ただ、あの時「オリンピック招致委員会」から「オリンピック・パラリンピック招致委員会」へと名称を変更したことで、さまざまなことが一気に動き始めた感じはしましたね。おそらく公の場でオリンピアンとパラリンピアンが初めて一緒になって招致活動をしたのではないでしょうか。
伊藤: プレゼンテーションでオリンピアンとパラリンピアンが一緒に登壇する姿に、とても感銘を受けたのを覚えています。
河野: ハンマー投げの室伏広治選手が射撃の田口亜希選手の車いすを押し、元シンクロナイスドスイミングの小谷実可子さんが河合純一さんに肩を貸し......何だか昔からずっと一緒にやってきたと思えるくらい、自然に手を取り合っていましたね。
明暗分けるプレゼン力
二宮: その日本を上回る評価を得たのがリオデジャネイロでした。プレゼンテーションでルラ大統領(当時)が情熱的な演説をされましたね。しかもルラ大統領はポルトガル語でスピーチしました。あれには驚きました。
河野: 原則としては英語かフランス語というルールとなっているのですが、通訳をつければ何語で演説をしてもいいんです。確かに母国語で話した方が気持ちがこもりますし、説得力があります。
二宮: 言葉の意味はわからなくても、ルラ大統領の五輪・パラリンピック招致への情熱が伝わってきました。日本も一度、日本語で演説してみてはいかがでしょう?
河野: それが吉と出るか凶と出るかは、やはり人と内容によるところが大きいと思いますね。というのも、実は失敗したケースもあるのです。14年冬季五輪・パラリンピックの招致では、ソチを開催都市として立候補したロシアのプーチン大統領が流暢な英語とフランス語で演説をしたのに対し、平昌を開催都市として立候補した韓国は盧武鉉大統領(当時)が母国語で話しました。その結果、軍配はソチに上がったのです。その経験を踏まえてのことでしょう。昨年行なわれた18年の冬季五輪・パラリンピックの招致では、李明博大統領が英語でスピーチして、平昌が開催都市に選ばれました。
二宮: なるほど。やはりキャラクターにもよるのでしょうね。
河野: それと、もう一つ大事なのが、世界的に知名度のあるスポーツ界のスターの存在です。12年ロンドンにはベッカム、そして16年リオにはペレがいました。その部分では、日本は非常に弱い。他の部分でどう差をつけるかが課題となります。
(第4回につづく)
<河野一郎(こうの・いちろう)プロフィール>
1946年11月6日、東京都生まれ。医学博士。国立大学法人筑波大学学長特別補佐・特命教授。1996年ラグビーワールドカップでの日本ラグビー協会の強化推進本部長として日本代表の団長、1988年ソウルオリンピックから2008年北京オリンピックまで日本選手団の本部ドクター、本部役員などを歴任。2016年東京五輪招致委員会事務総長などを経て、2011年10月に独立行政法人日本スポーツ振興センター理事長に就任した。日本スポーツ界の医・科学・情報の中心的役割を担っている。
日本スポーツ振興センター http://www.naash.go.jp/
(構成・斎藤寿子)
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