二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2013.02.14
第2回 変わりゆくパラリンピックの価値観
~高まるパラリンピックの存在価値~(2/4)
二宮: 水泳を始めたきっかけは?
鈴木: 保育園の頃に、家族にすすめられたんです。最初は、特にやりたいと思っていたわけではありませんでした。言われるがままに水泳教室に行っていたという感じでしたね。
二宮: はじめから泳ぎは得意だった?
鈴木: いいえ、保育園の頃は犬かきのような泳ぎだったみたいですし、特別に得意というわけではなかったですね。ただ、スポーツは好きでした。小学校や中学校ではサッカーも手に靴をはめて走ったりボールを蹴ったりしていましたし、野球も片手でバットを振って走ったりしていました。友だちはみんな健常者でしたけど、何でも一緒にやっていましたね。
二宮: その頃からパラリンピックを意識していたのでしょうか?
鈴木: まったくパラリンピックのことは頭にありませんでした。今よりも報道が少なかったということもありますが、僕はずっと一般の学校で健常者の友達と一緒に勉強も遊びもやっていましたから、「自分は障害者じゃない」という意識が強かったんです。ですから、障害者のスポーツ大会というだけで、自分には関係ないと思っていました。
二宮: パラリンピックを目指すきっかけは何だったのでしょう?
鈴木: 高校の時ですね。実は小学校の時、水泳と掛け持ちで吹奏楽をやっていたんです。そしたら、水泳よりも吹奏楽の方が楽しくなってしまって、中学校では水泳を辞めて吹奏楽部に入りました。その3年間は、体育の授業くらいしか泳ぎませんでしたね。水泳を再開したのは高校に入ってからでした。
ストレス発散からの再スタート
二宮: 水泳に戻った理由は?
鈴木: 自宅近くの高校だったのですが、進学コースに入ったので、他のコースよりも授業数は多いし、毎日宿題も山のように出たんです。勉強の方が忙しくて、吹奏楽部に入るなんて、とてもできませんでした。でも、勉強ばかりの毎日で、ちょっと逃げ出したくなった時に、「体を動かしてみたら?」と言われたんです。それで、また小学校まで行っていた水泳教室に通い始めました。そのうち、障害者の大会があるということを知ったんです。それで、ちょっと出てみようかなと。
二宮: 初めての大会の結果はどうでした?
鈴木: 地区レベルの小さな大会だったので、私と同じ障害のクラスには他の選手がいませんでした。ですから、1人で泳いで1位と......。ただ、その大会に来られていた日本身体障害者水泳連盟の技術委員長の方たちが僕の泳ぎを見て「いい泳ぎをしている」と。それでその年のジャパンパラリンピックに推薦していただいたのが、パラリンピックを目指すきっかけになりました。
二宮: 1年後にはアテネパラリンピックに出場しました。初めての世界最高峰の舞台はいかがでしたか?
鈴木: ほとんど国際大会にも出ていない状況でしたから、満員の会場で大声援の中を泳ぐのは初めての経験でした。あんなに緊張したことはなかったですね。スタート台に立った時、手が震えていたんです。フライングをとられるんじゃないかと心配になるくらい震えていたことを今でもはっきりと覚えています。
二宮: 個人種目の100メートル自由形と150メートル個人メドレーでは予選を突破して、決勝に進出。それぞれ7位、8位と入賞しました。そして4×50メートルメドレーリレーでは平泳ぎのメンバーに選ばれ、銀メダルを獲得しました。
鈴木: 初めてのパラリンピックでメダルを獲れたことは嬉しかったですね。でも、やっぱり個人種目でのメダルが欲しいという気持ちが強かったです。それが4年後の北京へのモチベーションとなりました。
(第3回につづく)
<鈴木孝幸(すずき・たかゆき)プロフィール>
1987年1月23日、静岡県生まれ。先天性四肢欠損。5歳から水泳を始め、小学校時代は水泳教室に通う。中学時代は吹奏楽部に所属するも、高校から水泳を再開。3年時にはアテネパラリンピックに出場し、メドレーリレーで銀メダルを獲得。早稲田大学に進学し、4年時に出場した北京パラリンピックでは、50メートル平泳ぎ(運動機能障害)で金メダルに輝いた。卒業後、ゴールドウィンに入社。昨年、ロンドンパラリンピックに出場し、50メートル平泳ぎと150メートル個人メドレーで銅メダルを獲得した。50メートル平泳ぎの世界記録保持者。
株式会社ゴールドウイン http://www.goldwin.co.jp/
(構成・斎藤寿子)
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