二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2013.03.07
第1回 完璧だったロンドンパラリンピック
~東京がロンドンから学ぶこと~(1/4)
昨年のロンドンパラリンピックに、アテネ、北京に続いて3回目の出場を果たした走り幅跳びの佐藤真海。自己ベストを更新したものの、わずか1センチの差で決勝には届かなかった。しかし、目を競技の外に転じれば、成熟都市ロンドンで行なわれたパラリンピックは東京が2020年の招致を目指すうえで参考になることがたくさんあったという。大会後、彼女は再び渡英し、情報の収集にあたった。彼女がロンドンパラリンピックで見て、聞いて、感じたものとは――。
二宮: 3大会目のパラリンピックはいかがでしたか?
佐藤: 大会運営、会場や街中の雰囲気、報道の仕方......どれをとっても、現在における最高のものを提供してくれていたように思います。これまで私が「ああしたらいいのに、こうしたらいいのに」と思っていたことのほとんどすべてが詰まっていましたね。改めて、パラリンピックって魅力的な大会だなと感じました。それは、私たち障害のあるアスリートに限られたことではなく、子どもたちにとっても社会にとっても、大きなエネルギーを与えてくれるものなんだなと。
二宮: 佐藤さん自身は、残念ながら決勝には進出することができず、9位という結果でした。
佐藤: 1回目で自己ベストを出して、最後まで上り調子できていたので、楽しみながら跳ぶことができていました。それくらい調子が良かっただけに、わずか1センチで涙をのんだのは心から悔しかったです。それでも満足感はありました。初めて出場したアテネでも同じように、あと3センチで決勝を逃したのですが、あの時は走り幅跳びを始めたばかりでメダリストとの差は歴然でした。でも、今回は5mオーバーの表彰台にはさすがに届かないなと思いましたが、4位から9位までは10数cmの差で、4位までは届く位置でしたから「あぁ、やっと手が届きそうな位置まできたんだな」と。
二宮: 表彰台が初めて見えていたと?
佐藤: そうですね。最後までそう信じて本番のピットに立っていました。走り幅跳びは、一度はまりだすとグンと記録が伸びることがあるんです。ですから、決勝であと3本跳びたかったですね。
自己ベストをもたらした挑戦
二宮: 北京後、ロンドンに向けて技術的に変えた部分は?
佐藤: 踏み切り足をそれまでの左足の健足から右足の義足に替えました。
二宮: 随分と大きな冒険をしましたね。健足と義足とでは、感覚がまったく違うのでは?
佐藤: はい、だから納得したジャンプができるようになるまでには、予想以上に時間がかかりました。
二宮: なぜ、踏み切り足を替えようと思ったのでしょう?
佐藤: もともと軸足が左で、自分の足で跳んでこそ、という気持ちがあったんです。でも、世界の潮流は完全に義足踏み切りなんです。それで北京後、ロンドンを目指すかどうかを悩んでいた中で、義足踏み切りにチャレンジしないまま走り幅跳びを辞めてしまったら、悔いが残ってしまうだろうなと。それで、思い切って替えてみることにしたんです。
二宮: 実際に替えてみてパフォーマンスは上がりましたか?
佐藤: それが......ドーンと落ちていったんです(笑)。最初は違和感どころの話ではなく、義足のどこで踏み切っているのかもわからなかった。バランスを崩せば、ケガにもつながりますから、怖さもありました。特に私の場合は、ヒザ下の部分が短いので、踏み切った時に最後、地面を押し込むことができないんです。3年間は、跳んでいる気がしませんでしたね。ようやく跳ぶ感覚がつかめたのはパラリンピックイヤーの2012年に入ってからです。そこから少しずつ記録が伸びていきました。3月の最終選考会で4年ぶりの自己ベストを出して、ロンドン行きの切符を掴んだんです。本当にギリギリで間に合ったという感じでした。
二宮: ちょうどロンドンでピークを迎えることができたように見えました。その結果としての自己ベスト更新だったんでしょう。
佐藤: 跳べない時期は、「いつ、健足に戻そうか。いや、まだ我慢しよう」と、毎日自問自答していたんです。今思うと、最後まで粘って本当に良かったです。
(第2回につづく)
<佐藤真海(さとう・まみ)プロフィール>
1982年3月12日、宮城県生まれ。サントリーホールディングス株式会社勤務。早稲田大学2年時に骨肉腫を発症し、右足ヒザ下を切断。退院後、東京都障害者総合スポーツセンターで水泳を始める。その後、競技用義足の第一人者・臼井二美男氏と出会い、陸上競技へ。走り幅跳びで2004年アテネ、08年北京に続いて、昨年ロンドンパラリンピックに出場した。2013年2月に日本スポーツ振興センターのSports Japanアンバサダーに就任。著書に『ラッキーガール』(集英社)、『夢を跳ぶ――パラリンピック・アスリートの挑戦』(岩波ジュニア新書)、『とぶ!夢に向かって』(学研)がある。
サントリーホールディングス株式会社 http://www.suntory.co.jp/
(構成・斎藤寿子)
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