二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2013.06.06
第3回 新スタイルのサッカーへ
~バスケットマンからサッカー指導者へ~(3/4)
二宮: これまで18年間、車椅子バスケットボールプレーヤーとして活躍されてきたわけですが、その間もサッカーへの熱い気持ちは変わらなかった?
京谷: はい、まったく変わりませんでしたね。いつかはサッカーの指導者になりたいという気持ちをずっともっていました。
二宮: 事故で車椅子生活になり、サッカーができなくなってしまった時は、もうボールも見たくない、という気持ちになりませんでしたか?
京谷: それが全然なかったんです。やっぱりサッカーが好きだったんだと思います。実は僕、テレビでNBAの試合をほとんど見たことがないんです。車椅子バスケットをやっている時も、ずっとW杯はもちろん、Jリーグやプレミアリーグ、リーガエスパニョーラばかり見ていました。
二宮: サッカーとバスケットでは、競技はまったく異なりますが、車椅子バスケットでやってきたことをサッカーにフィードバックさせることもできるのでは?
京谷: はい、できると思います。僕自身、車椅子バスケットをやって、プレーや見方の幅が広がったと感じています。もともとサッカー選手の時は、主に前線にいるポジションだったこともあって、常に攻撃のことしか頭になかったんです。だからあのままサッカーだけをやって指導者になったとしたら、攻撃的な視点での指導になっていたと思うんです。でも、車椅子バスケットではディフェンスに力を入れてやってきました。ですから、そこで養ったものを活かして、広い視点での指導ができるのではないかと思っています。
二宮: 車椅子バスケットという競技をやってきた京谷さんにしかできない、新しいスタイルが生まれるかもしれませんね。
京谷: そうですね。これまでの指導者とは違う視点で、いろいろと伝えられることもあるのではないかと思います。サッカーとは違う畑からのエッセンスをうまく織り交ぜて、独自のスタイルを築き上げていきたいです。
10年後の監督デビューを目指して
二宮: 予定としては、いつごろには監督になりたいと思っていますか?
京谷: そんなに焦ってはいないんです。テレビで観ていたとはいえ、実際サッカーからは18年間離れていたわけですからね。まずはたくさん試合を見て、自分の目や頭を車椅子バスケットからサッカーの感覚に戻す作業をしているところです。
二宮: 自分のスタイルを築き上げるのは、それからだと。
京谷: はい、そうですね。そのうちに誰かの下でコーチをやらせてもらって、いろいろなことを詰め込んで、最終的には自分のサッカー観をつくりあげていこうと思っています。それを10年くらいかけて、じっくりとやっていくつもりです。
二宮: じゃあ、50代で監督デビュー?
京谷: そうなればいいのですが、簡単に監督が務まるほど、甘い世界ではないとも思っています。
二宮: きちんと長いスパンで人生設計をされているように感じられます。
京谷: 事故に遭ってから、いろいろと考えさせられましたからね。サッカー選手の時には、その時その時のことしか考えていませんでした。プロになったことで満足してしまって、その先の夢や目標を持っていなかったんです。自分で自分の成長を止めてしまっていたんですね。ケガもあってトップチームにもなかなか上がれず、結婚も控えて先々の不安を抱えている時に事故を起こしました。でも、事故に遭ったことでいろいろと経験し、やはり夢や目標は常に持ち続けなければいけない、ということを痛感しました。夢や目標に対してしっかりと向き合い、行動を起こしていくことの大切さを事故は教えてくれました。
(第4回につづく)
<京谷和幸(きょうや・かずゆき)プロフィール>
1971年8月13日、北海道生まれ。小学2年からサッカーを始め、室蘭大谷高校時代にはインターハイ2回、高校選手権3回、国民体育大会3回出場。3年時の選手権では優秀選手に選ばれた。2年時にはユース代表、3年時にはバルセロナオリンピック代表候補にも選ばれるなど、将来を嘱望されていた。高校卒業後、古河電工(現ジェフユナイテッド千葉)に入団したが、93年に自動車事故で引退。94年から車椅子バスケットボールチームの千葉ホークスに所属し、全国車椅子バスケットボール選手権大会で8度の優勝を経験。日本代表としてはシドニー、アテネ、北京、ロンドンと4大会連続でパラリンピックに出場した。ロンドン大会後、現役引退を表明し、サッカー指導者としての道を歩み始めた。昨年12月に日本サッカー協会公認C級コーチライセンスを取得。現在は来年のB級取得を目指している。そのほか、講演や一般社団法人「運動の和」代表代理も務めるなど、幅広く活躍している。
京谷和幸オフィシャルサイト http://www.kyoyastyle.com/
(構成・斎藤寿子)
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