二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2014.06.19
第3回 "見て楽しむ"スポーツへ
~2020年へ選手強化の展望~(3/4)
伊藤: 花岡さんは日本身体障害者陸上競技連盟の強化委員も務められているわけですが、リオパラリンピックまで2年、東京パラリンピックまで6年という中、陸連として取り組んでいかなければならないことは何でしょうか?
花岡: 問題や課題は山積しているわけですが、陸連として何を一番大事にしていくかということを考えなければいけないと思うんです。理想は、ビギナーがいて、ジュニアがいて、その上にトップアスリートがいるというふうに、「発掘」「育成」「強化」がピラミッド型になっていることです。ところが、今陸連が取り組んでいるのは、主にトップの「強化」に限られている。土台がしっかりしないと、トップも崩れてきますから、今後は「発掘」「育成」にも力を入れていく必要があると思います。もちろん、個々には体験会を開いたり、クラブチームを作ったりしています。でも、その動きにまかせるだけでなく今は組織的に行っていかないといけない時代だと思いますね。
二宮: これまで障がい者スポーツはリハビリの一環として扱われてきたこともあって、何をするにも「事故があってはいけない」というふうに消極的になりがちでした。だから大会やイベントを開催するにも、小さくまとまってしまって、内々だけで行なわれてきた印象があります。もちろん、それも障がい者への配慮ではあるのでしょうが、もう少し外部へのアピールを積極的に行う必要もあるのではないでしょうか?
花岡: おっしゃる通りだと思います。せっかく大会やイベントを行っても、気軽に誰もが参加したり、見たりすることができる雰囲気がないというのが現状です。例えば、僕たちパラリンピックを目指しているトップ選手たちが出場する日本選手権やジャパンパラは、無料で観戦することができるんです。でも、実際に訪れるのは選手の家族や関係者ばかりなんです。
伊藤: 昨年、東京オリンピック・パラリンピックの開催決定後、「スポーツ祭東京」として国民体育大会と、全国障害者スポーツ大会が一体となって行なわれました。パラリンピックへの機運も高まっていましたし、招致最終プレゼンテーションのトップバッターとしてスピーチした佐藤真海さんも出場したので、お客さんの入りも違うかなと期待していたのですが、残念ながら例年とほとんど変わりませんでした。どうすれば、一般の人たちの足がスタジアムに向くようになるのでしょうか?
花岡: 高い壁に囲われた大きなスタジアムでは、何をやっているのかもわからないのに、入ってみようと思う人はほとんどいません。でも、一般の道路から見えるような場所で車椅子レースをしていたら、通りすがりに「何やってるんだろう?」と足を止める人が出てくると思うんです。実は、海外ではそういう大会が少なくありません。ナショナルの大会や大きなイベントでも、フェンスひとつはさんで、フラットなところで通行人が見れるような競技場でやっている。そうすると、「あれ、なんかやっているな」「ちょっと入ってみようかな」と、気軽に見たり、参加したりすることができるんです。
【学ぶべきはロンドンの成功例】
二宮: 以前、メジャーリーグの取材で米国に行った際、偶然、車椅子陸上の大会を見かけて、立ち寄ったことがあるんです。道を歩いていたら、車椅子の人が大勢集まっていて、なんだか楽しそうにしている。「何があるのかな?」と思って行ってみると、近くでレースが行われていたんです。でも、日本ではそういうことはめったにありません。広報活動が足りないために、「気軽に立ち寄る」ということができない。選手としては、本当は自分のパフォーマンスを多くの人に見てもらいたいと思っていますよね?
花岡: はい、そうなんです。僕がトラック競技よりもマラソンが好きなのは、ロードの方が多くの人に見てもらえるからなんです。
二宮: ところが、先ほども申し上げたように、障がい者スポーツはリハビリの一環として扱われていたために、「人に見せる必要はない」という雰囲気があった。伊藤さんも、現場でそう感じたことがあるのでは?
伊藤: はい、よく感じますね。本来、スポーツというのは「する」「見る」「支える」の3つの要素から成り立っているのですが、日本の障がい者スポーツにおいては「見る」という部分がほとんど行われてきませんでした。ただ、東京パラリンピックの成功を考えても、これからは「見る」という部分にも力を入れていく必要があると思いますね。
花岡: ロンドンパラリンピックでは、「する」「見る」「支える」のバランスが、非常に良かったと思うんです。午前中の予選から、スタジアムが観客で埋め尽くされていて、大歓声が飛び交っていた。「あぁ、この人たちは本当に僕らのパフォーマンスを見たいと思って来てくれたんだな」と感じましたね。果たして6年後に東京でもそういう雰囲気をつくることができるかどうか......正直なところ、まだ自信をもって「はい」とは言えないですね。もっと「見る」という部分にも目を向けて取り組んでいかないといけないと思っています。
(第4回につづく)
<花岡伸和(はなおか・のぶかず)プロフィール>
1976年3月13日、大阪府生まれ。プーマ ジャパン所属。1993年、高校3年時にバイク事故で脊髄を損傷し、車椅子生活となる。1994年から車椅子陸上を始め、2002年には1500メートルとマラソンの当時日本記録を樹立した。2004年アテネパラリンピックに出場し、マラソンで日本人最高位の6位入賞。2012年ロンドンパラリンピックでは同5位入賞を果たした。同大会を最後に陸上選手としては引退。現在はハンドサイクルに転向し、2016年リオパラリンピックを目指している。現在は国内外のパラサイクリング大会に出場する傍ら、日本身体障害者陸上競技連盟強化委員会車椅子グループ部長を務める。
(構成・斎藤寿子)
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