二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2015.01.29
第4回 "おらが国の"オリンピック・パラリンピックへ
~障がいの有無を超えたスポーツの力~(4/4)
川淵: 前回の1964年の東京オリンピック・パラリンピックは、「東京」という一都市にすべて集約され、日本のシンボルとして世界に発信されました。しかし、2020年の東京オリンピック・パラリンピックは、東京のみならず、今度は国全体を意識した大会として、日本そのものを世界へアピールできるような大会にしたいですね。それこそ、「東京オリンピック・パラリンピック」ではなく「日本オリンピック・パラリンピック」と呼んでもいいと思うんです。
二宮: 実際、2020年東京オリンピック・パラリンピックの競技会場を地方へと広げようという案も浮上しています。例えば、サッカーの予選は首都圏である埼玉県や神奈川県のほかに、「東日本大震災」の被災地である宮城県や、大阪府での開催が検討されています。
川淵: 私はとてもいい案だと思うんです。特にサッカーの場合、男女どちらもあって、試合数が多い。男子は32試合、女子も東京オリンピックでは出場チームがこれまでの12チームから男子同様に16チームにしようという動きがありますから、そうなると女子も32試合になる。男女合わせて64試合も行なわれるんですね。仮にひとつのスタジアムで6試合やったとしても、およそ10カ所の会場が必要になります。これだけの試合数があるわけですから、東京だけにとどめず、ぜひ他の地域でもやってもらって、多くの人にオリンピックを生で味わってほしいですよね。
伊藤: 1競技、1試合だけでもオリンピック・パラリンピックの試合が"おらがまち"で行われれば、それだけで身近に感じますし、盛り上がるはずです。まさに「日本オリンピック・パラリンピック」になりますよね。
川淵: そうなんです。「自分たちのオリンピック・パラリンピック」なんだ、と参加意識が芽生えますよね。
【競技会場拡大で地域活性化へ】
二宮: 2002年のW杯では、カメルーンのキャンプ地だった大分県の旧中津江村(現日田市中津江村)が日本で最も有名な村になりました。2020年東京オリンピック・パラリンピックでも、これまで国内で知られていなかった地域にスポットが当たり、それこそ地域活性化につながることが期待されています。
川淵: おっしゃる通りだと思います。何せ、オリンピック・パラリンピックには世界中のメディアが来て、日本の情報を発信してくれるわけです。こんなチャンスは滅多にありません。
伊藤: 旧中津江村とカメルーンは未だに親交が続いているようですね。
川淵: 旧中津江村の坂本休元村長は、2010年南アフリカW杯にも2014年ブラジルW杯にも、カメルーンの応援に行っているんです。しかも南アフリカの時は、グループリーグで日本とカメルーンが対戦しているのですが、坂本さんは日本ではなく、カメルーンの応援に行っているんですよ(笑)。それこそ、カメルーンで坂本さんは国賓待遇で迎えられるとか...。
二宮: 今はツイッターやフェイスブックなどSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で、世界の情報を瞬時に取得し、発信することができます。東京オリンピック・パラリンピックで来日した外国人が、ついでに行ったようなちょっとした場所の情報もSNSで世界に発信される可能性があるわけです。
伊藤: "第2の中津江村"が誕生するかもしれませんね。
川淵: そうですよね。世界には日本のことを知らない人はまだまだ多い。2020年東京オリンピック・パラリンピックを、ぜひ日本を知る機会にしてほしいと思います。
(おわり)
<川淵三郎(かわぶち・さぶろう)>
1936年12月3日、大阪府生まれ。早稲田大、古河電工で活躍。1964年東京オリンピックにサッカー日本代表として出場した。現役引退後、古河電工サッカー部監督、日本代表監督を歴任。88年、日本サッカーリーグの総務主事に就き、サッカーのプロ化をけん引。91年、Jリーグ初代チェアマンに就任。2002年W杯招致にも尽力した。日本サッカー協会会長などを経て、現在は同最高顧問を務める。2020年東京オリンピック・パラリンピック組織委員会評議員、公立大学法人首都大学東京理事長。08年、日本サッカー殿堂入り。2009年、旭日重光章受章。
(構成・斎藤寿子)