二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2015.07.23
第3回 スイーツもアスリートも地産地消
~食とスポーツで明るい未来を~(3/4)
二宮:スポーツ界は現在、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向け、強化を進めています。日本トップレベルの競技者用施設ナショナルトレーニングセンター(NTC)は東京都北区にある。NTCで長期間合宿を行う競技団体も少なくありません。中央集権的、東京一極集中でいいのかとの声もあります。アスリートはやはり地元で育てようと。簡単に言うとアスリートの地産地消化計画です。各地方にクラブがあり、出身選手がそこで活躍する。辻口さんは地元の石川県のほかに三重県でも観光大使を務め、地域振興に尽力されています。
伊藤:石川県の製菓専門学校の校長を務めるなど、教育にも力を入れていますね。故郷でパティシエを育て、食材も地元のものを大事にする。これがまた地域振興にも繋がっていきますよね。
辻口:そうなんです。石川には九谷焼、輪島塗に代表される食器や漆器の文化もあります。料理やスイーツを食べる時に必ず器は必要なので、お菓子作りと合わせて、地域の文化をどう取り入れていくかは、とても大切なことだと思うんです。日本の伝統文化の素晴らしさを、子供たちに伝えていきたい。日本は優れた文化を持った国ですから、その良さを知ってもらうことに繋げていきたいと思っていますね。
二宮:地方にはいろいろな資源があります。同じ料理やスイーツでもやはり九谷焼で食べると、何かもう一段美味しくいただけるような感じもあります。古九谷だったら、更に美味しいんじゃないかなという気もしますけどね(笑)。せっかく北陸新幹線が開通したわけですからね。関連したツアーやイベントがあってもいい気がしますね。
辻口:そうですね。話は変わりますが、この間、兵庫県の城崎温泉に行ったんですね。温泉のある豊岡市城崎町には野茂英雄さんがつくったNOMOベースボールクラブがあります。城崎温泉の旅館では、NOMOベースボールクラブの選手たちが働いているんですよね。地域で野球選手を支えていく取組みをされているという話を聞いてですね。そうした環境が整っていくことは、とても素晴らしいことだと思いました。
伊藤:食とスポーツでもコラボレーションできそうですね。たとえば辻口さんのパティシエの専門学校と、独立リーグの野球チームである石川ミリオンスターズ、サッカーJ2のツエーゲン金沢と、何かできるかもしれないですよね。
辻口:そうですね。実際にいくつかのチームに協賛させていただいています。
【セカンドキャリアへと繋ぐ道】
伊藤:アスリートもそうですし、辻口さんのような世界的なパティシエが、自分の住んでいるところから出たんだと思うと、地元の子どもたちにとっては、憧れる対象として、より身近になりますよね。そういったことを感じられる場所や機会を作っていければいいですよね。
辻口:はい。何か一所懸命になるものを持っている人、夢を追いかけている人は、やはり強いですね。そういう意味では、スポーツを通した地域振興は、これから絶対必要です。それを自治体が意識して、予算をつけていけば、もっと地域が活性化していくような気がしますね。
二宮:そのほかにも選手のセカンドキャリアで貢献できることもあると思います。みんながみんなプレーヤーとして成功するわけではありません。その場合には第二の道として、違うジャンルで一流を目指すとか、いろいろ選択肢があってもいいかもしれないですね。
辻口:アスリートの方たちが、一所懸命になることをまた見出すことによって、新しい人生が拓けてくる。もちろん、プロになるという人もいるでしょうし、指導者として勉強されている人もいるでしょう。そうではない人も違う職種で、第二第三の人生が拓けるような、そういう仕組みがあるといいですよね。
伊藤:そうですね。それはパラスポーツでも期待したいですね。
辻口:パラアスリートとお菓子の世界もうまく融合していける何かがあると、面白いなと思いますね。たとえば車椅子の方は狭い調理場で動き回るのは難しいかもしれませんが、その場だけで精密にモノを作り上げる仕事があってもいいのかなと。クリームで何かを描くというポジションで、専門的に特化してやってもらう。スポーツをやりながら、お菓子にも興味ある方も沢山いらっしゃるんじゃないかと思うんですよね。
(第4回につづく)
<辻口博啓(つじぐち・ひろのぶ)>
1967年3月24日、石川県生まれ。世界大会で数々の優勝経験を持つ、世界的パティシエ。モンサンクレール(東京・自由が丘)をはじめ、コンセプトの異なる12ブランドを展開している。NHK連続テレビ小説「まれ」では製菓指導を担当。食育や教育にも積極的に取り組み、専門学校やお菓子教室で校長を務め、後進の育成に力を注ぐ。自らが代表理事を務める一般社団法人日本スイーツ協会では「スイーツ検定」を実施し、「スイーツ育」を提唱。スイーツ文化の発展、向上に努めている。石川県や三重県の観光大使、金沢大学非常勤講師、産業能率大学客員教授を務める。
(構成・杉浦泰介)