二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2015.07.30
第4回 夢はスイーツを通じた世界平和
~食とスポーツで明るい未来を~(4/4)
伊藤:辻口さんは2011年に日本スイーツ協会を立ち上げ、現在もスイーツ文化の発展・向上に貢献されています。
辻口:今では当たり前のようにスイーツと呼ばれていますが、実は「スイーツ」という言葉は、フランスはもちろん、アメリカでも一般的ではなく、通じないんです。
二宮:和製英語だったわけですね。
辻口:日本の場合は、多くのメディアが"和のスイーツ"などとスイーツを様々な種類に分類し、その呼称も定着しています。それを今度は言葉から文化にしていくために、日本スイーツ協会で、スイーツを通した人作りを進めているんです。「スイーツ育」を広げていきたい思いもあり、先月からは通信教育を手掛けるユーキャンとのコラボレーションもスタートしました。
二宮:スイーツは食べた人が笑顔になる。人に幸せを与えられる仕事は、とても将来性がある気がします。それを目指す人が増えるということは、とてもいいことだと思うんですよね。
伊藤:辻口さんの夢は「スイーツを通じた世界平和」だとお伺いしました。オリンピック・パラリンピックも平和の祭典なんですよね。そこにも共通するものを感じます。
辻口:たとえばテロで少女に爆弾を背負わせ、平気でスイッチを押させてしまうような国もある時代です。そういったことができてしまう理由には、その国の社会のあり方や、戦争などが心の闇を作ってしまっているからではないでしょうか。やはり家族や社会との繋がりをもっともっと色濃く、体現できるようなひとつのメソッドを作り上げる。それが僕にできる世界平和かな、と思っています。
二宮:それをスイーツで実現したいと。
辻口:そうですね。お菓子を作り上げる時に、相手に対する感謝の気持ちを持って作業をする。口の中に入れるものですから、衛生面もしっかりケアしなければならない。相手を想う気持ちが大切です。何より"この世の中に生を受けてよかった"と自分自身の存在価値を、幼い時から培っていけるような社会をつくりたいんです。そのお手伝いができればと「スイーツ育」を推奨しているんです。
【2020年東京オリンピック・パラリンピックに期待すること】
二宮:ところで2020年の東京オリンピック・パラリンピックの選手村のスイーツを担当してくれという話は来ていませんか?
辻口:いや、まったく来ていないです(笑)。とても名誉なことですし、依頼があれば飛んで行きますよ。
伊藤:もし実現すれば、世界に日本のスイーツをアピールするいい機会ですよね。世界中の人が「日本のスイーツは、こんなに美味しいのか」と思っていただけるのではないでしょうか。
辻口:日本の素材で作ることもできますし、是非、そういう機会があるといいですね。
二宮:2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長は、辻口さんと同じ石川県出身ですし、声をかけられる可能性はあるかもしれませんね(笑)。話は変わりますが、高齢者と障がい者には親和性があり、今後はバリアフリーを含め、パラアスリート用に開発したものが超高齢社会に役立つとも言われています。2020年のパラリンピックを機に、そういったものに転用していくことができればいいですね。
辻口:ええ。医療・介護に限らず、食の面でも絡めていければと思います。
二宮:様々なことにおいて、2020年には劇的な変化が表れるかもしれませんね。改めて、5年後の東京パラリンピックに期待することは何でしょうか?
辻口:ヒーロー、ヒロインが生まれることもすごく大事だと思います。そこから国がグッと押しあがっていく。サッカーもアマチュアからムーブメントが生まれたわけですから、パラリンピックももっとムーブメントが生まれて、色々な感動があれば、もっと盛り上がるんじゃないかなと思うんですよね。そこからスポンサーなどをつけて、競技団体や選手に還元できるような、しっかり循環できるような仕組みが、パラリンピックを契機に生まれてくるといいですよね。
(おわり)
<辻口博啓(つじぐち・ひろのぶ)>
1967年3月24日、石川県生まれ。世界大会で数々の優勝経験を持つ、世界的パティシエ。モンサンクレール(東京・自由が丘)をはじめ、コンセプトの異なる12ブランドを展開している。NHK連続テレビ小説「まれ」では製菓指導を担当。食育や教育にも積極的に取り組み、専門学校やお菓子教室で校長を務め、後進の育成に力を注ぐ。自らが代表理事を務める一般社団法人日本スイーツ協会では「スイーツ検定」を実施し、「スイーツ育」を提唱。スイーツ文化の発展、向上に努めている。石川県や三重県の観光大使、金沢大学非常勤講師、産業能率大学客員教授を務める。
(構成・杉浦泰介)