二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2016.02.25
第4回 手を取り合って強化・普及を
~障がいを超えた絆で夢を追う~(4/4)
二宮:ブラインドサッカーが強い国・地域は、サッカーの強いところが多いとお聞きしました。やはり南米やヨーロッパはノウハウや土壌が違うんでしょうか。
落合:確かにサッカー強豪国は強いですね。ブラジル代表の主力選手から以前こんな話を聞いたことがあります。彼らは目が見えなくても、見えている人と一緒にボールを蹴って育ってきているんです。そういった下地があるのでボールを扱う際に足に意識を向けていないらしいんですよ。彼らの技術はその域にまで達している。私も含め日本の選手の何割かは、足元に意識が集中する時間があるんです。しかし、ブラジルの選手はそれがほぼゼロに近い。その分、周りのことに意識を向ける余裕があるので、プレーのレベルが一段階上にあるのだと思います。
二宮:なるほど。本当の意味でのバリアフリーですね。目の見える人、見えない人が一緒になってプレーをすることで高度なスキルが培われると。
落合:ブラインドサッカー専用のボールではなく、11人制のサッカーボールにビニール袋などを被せてプレーしていると聞いたことがあります。音が出るようにしているとはいえ、専用ボールと比べれば音はまったく聞こえません。その状態でプレーしているのは本当にすごいと思います。
二宮:ブラジルなどの強豪国と比較すると、日本では視覚障がい者と健常者が一緒にプレーをする機会は多くないのでしょうか?
落合:はい。健常者が目隠しをしてブラインドサッカーをプレーすることはあります。私たち視覚障がい者が健常者の友達と遊びでサッカーをやることもありますね。見えている人に配慮してもらいながら、ゲーム形式の3対3などですね。私は11対11のサッカーをやったことはないですが、経験してみたいですけどね。
伊藤:以前落合選手もおっしゃっていましたが、2020年東京パラリンピックに向けて普及活動も大事だと言われています。皆で一緒にサッカーを楽しむ中から、競技の普及が進んだり、新しい選手が発掘できれば理想的ですよね。
落合:ええ。ボールさえあれば誰もが一緒にプレーできると思うんですよね。特に人口の少ない地方では視覚障がい者の数も比例して少なくなっていくので、そこでサッカーをしていくには見える人と協力をしないと上手くならない。そういう意味では見える人と見えない人が工夫して練習をしていくことが大事だと思いますね。見える側も手を抜かずに一生懸命やることで、見えない人のレベルが引き上げられていく。そういう効果もあると思うのでどんどんやってほしいと思います。
【ブラインドサッカーを人気競技に!】
二宮:競技歴10年を超える落合選手ですが、昔と比べて環境面は変わりましたか?
落合:かなり変化してきていますね。例えば、2020年東京パラリンピックの成功とパラスポーツの振興を目的に日本財団パラリンピックサポートセンターが設立されました。あとは日本サッカー協会(JFA)が日本ブラインドサッカー協会を含めた7つの障がい者サッカーの競技団体と連携をしていこうという動きもあります。
二宮:パラスポーツへの追い風が吹きつつあると。
落合:はい。それ以外にも「パラリンピック」という言葉がメディアを通していろいろと出てくるようになってきていますよね。CMなどでも「東京オリンピック・パラリンピック」とワンセットとして使われています。「パラリンピック」という言葉自体、今まで聞くことが本当に少なかったわけですから。そういう意味では、パラリンピックを知らない方が「パラリンピックとはなんだろう?」と思うだけでもすごい進歩だと思うんです。
伊藤:一昨年の世界選手権と昨年のアジア選手権、国内で開催したブラインドサッカーの国際大会で有料にもかかわらずお客さんが増えましたよね。あんなにスタンドに人が入っているところを見て、私は本当に感動しました。
落合:ブラインドサッカーが観戦チケットの有料化に踏み込んで、そうしたチャレンジの中で満員になったということは本当に嬉しかったです。
二宮:JFAと協力してさらなる発展を目指したいですね。
落合:日本サッカーを盛り上げていくためには手を取り合わないといけないと思います。難しいことが多々あるかもしれませんが、様々な課題を乗り越えていくためにたくさんの人が協力しあうことが必要だと思います。JFAだけではなく、日本パラリンピック委員会(JPC)と日本オリンピック委員会(JOC)とスポーツ庁もそうですし、色々な団体が手を取り合って欲しい。その手を取り合う数が増えれば増えるほど大きな力になると思います。
二宮:まずは連携を深めていこうということですね。諸外国のサポート体制にはどんな例があるのでしょうか?
落合:ブラインドサッカーの強豪国では、代表選手が大会の半年前から給料をもらいながら競技に専念できるそうです。これはブラジルの話なのですが、2006年から一度も負けてないんですね。約9年間も。だから国民もブラインドサッカーの代表にすごい期待を持っているらしく、健常のブラジルA代表よりも期待値は高いとも言われているんですよね。
伊藤:9年間負け知らずというのはすごいですね......。
落合:国民の人気スポーツとして、サッカー、F1、バレーボールなどが挙げられる中で、ブラインドサッカーも上位にくるみたいですね。パラスポーツというカテゴリーは関係なく、国民から人気スポーツとして支持されているようなんです。
伊藤:ブラインドサッカーという1つのスポーツとして認知され、人気を得ているんですね。
落合:だから日本でもパラスポーツが人気スポーツになってほしい。ブラインドサッカーに限らなくとも、車椅子バスケットボールなどたくさんの魅力的なパラスポーツがありますので、それがひとつのスポーツとして人気が出てくればいいなと思いますね。
(おわり)
<落合啓士(おちあい・ひろし)>
1977年8月2日、神奈川県生まれ。10歳の時に、徐々に視力が落ちる進行性の難病である網膜色素変性症を発症する。25歳でブラインドサッカーを始めると、翌年に日本代表に選出され、2006年から3大会連続で世界選手権に出場。11年から日本代表の主将を務めた。10年に神奈川県唯一のブラインドサッカーチーム「buen cambio yokohama」設立。チームの代表を務める傍ら、自身も同チームに所属するプレーヤーとして活躍する。ポジションはFW。身長171センチ、体重71キロ。
(構成・杉浦泰介)