二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2016.06.23
第4回 力を存分に発揮するためのサポート
~夢を掲げるパワーリフター~(4/5)
伊藤:会社のサポートなしにはリオデジャネイロパラリンピックの日本代表内定はなかったとお聞きしました。現在所属している乃村工藝社には、どのようなきっかけで入社されたのでしょうか?
西崎:出会いは「アスナビ」という企業と現役トップアスリートをマッチングするJOCの就職支援制度ですね。現役復帰してまもなく、「パワーリフティングに集中できる職場を探したい」と日本パラ・パワーリフティング連盟の吉田寿子事務局長に相談したところ、「アスナビに登録してみたらどうか」とアドバイスをいただきました。そこでアスナビを通じて乃村工藝社を紹介してもらい、2014年11月に入社しました。
二宮:乃村工藝社からはどのようなサポートを受けていますか?
西崎:そうですね。経済面はもちろん、トレーニングに充てる時間を十分に確保していただいています。会社には、練習も仕事として認識してもらっているので、大事な大会前にも集中して練習できています。そのほかにも公式戦用のベンチ台を会社内に用意していただきましたので、大会と同じもので練習がいつでもできるようになりました。環境面でも、ものすごく支援をしてくれていると感じています。
伊藤:競技に集中できる環境づくりは大変有り難いですね。
西崎:はい。さらに昨年12月には一般社員に向けた社内イベントを開いてくれました。リオデジャネイロパラリンピック出場に向けて練習を重ねていた私に、会社としてももっと応援の輪を増やそうとしてくれました。
伊藤:イベントは競技をもっと知ってもらうために行ったのでしょうか?
西崎:そうです。映像などを使って競技について詳しく説明しました。それまでは、大会に応援に来てくれていた方たちも細かいルールを知らずに見ていました。例えば、バーベルを挙げても審判の判定で失敗になることもあります。そういった細かい部分を理解してもらうことで、より競技に親しんでもらえる。さらにベンチ台も用意して、実際に社員がパワーリフティングを体験する場も設けられました。盛り上がりましたし、僕もすごく楽しかったです。
【観客の後押しで日本記録更新】
伊藤:今年1月に日本体育大学の記念講堂で開催された「全日本パラ・パワーリフティング選手権大会」に伺いました。私は去年の大会にも行っていたのですが、今年はとても同じ会場とは思えないほどの華々しいものでした。もちろん去年も大会に必要なものは揃っていたのですが、今年は照明やステージ上のバックパネルなどによって舞台が綺麗に演出されていました。そこに選手もカッコ良く登場する。スポーツの大会はそういった見栄えも大事だと思うんです。調べてみると、乃村工藝社が大会の協賛をされていて運営にも携わっていらっしゃった。こういったサポートの方法は素晴らしいと感じました。
二宮:選手を雇用するだけじゃなく、そういう演出までされているんですね。乃村工藝社というとゲームショーやモーターショーなども手掛けられているイメージがありますが......。
西崎:当社は、商業空間など空間をつくるだけでなく、国内外のイベントやプロモーションなどもお手伝いしています。そういったノウハウもあって大会の運営などに携わらせていただきました。
伊藤:パラスポーツの大会は運営に費用を掛けられないケースが多いので、手作りに近い大会もあります。選手が受付をしているということもある。今回の全日本選手権のようにしっかりと演出された大会を開催することで、観に来られた人の印象も大きく変わると思います。私は非常に感動しました。
西崎:すごかったですね。大会にはおよそ300人が来場したそうです。その時には会社からの応援で70人も観に来てくれました。
二宮:やはり観客が多いと励みにもなるでしょう。
西崎:ええ。僕はそのときに自分が持っている以上の力を出せたというか。3回目の試技で日本記録を更新する135キロを挙げました。応援がなくひとりだったらとてもじゃないけど挙げられていなかったと思います。
二宮:声援が"見えない力"となって後押しをしてくれたんでしょうね。
西崎:そういった力を感じたのは初めてですね。極端に言えば会場のどこを見ても僕の応援団がいました。心強かったですし、期待に応えたいという緊張感もありましたのでそれが結果につながったと思います。
(第5回につづく)
<西崎哲男(にしざき・てつお)>
1977年4月26日、奈良県生まれ。交通事故で脊髄を損傷し、車いす生活に。その後、車いす陸上を始めると2006年の世界選手権に男子400メートルで出場を果たす。2011年、陸上競技を現役引退。13年に東京五輪・パラリンピック開催が決定後、競技種目をパワーリフティングに変更し現役復帰した。翌年の全日本選手権の男子54キロ級で初優勝。同年のインチョンアジアパラ競技大会では6位入賞を果たす。今年1月の全日本選手権で自身の持つ日本記録を塗り替える135キロで優勝。4月にリオパラリンピック日本代表に内定した。乃村工藝社所属。
(構成・杉浦泰介)
西崎選手の練習風景を取材した「Rio,Rio,Rio」もご覧ください。