二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2016.06.30
第5回 感謝の気持ちを力に
~夢を掲げるパワーリフター~(5/5)
伊藤:今年4月にリオデジャネイロパラリンピック代表に内定しました。改めて念願のパラリンピックへの出場権を得ていかがですか?
西崎:うれしいのはもちろんですが、実はリオ大会に関しては出場をあきらめていた部分もありました。リオデジャネイロパランピックに出場するためには、各階級の「リオランキング」で上位8位以内に入るか2つの推薦枠で選ばれる必要があります。今年2月に行われたドバイのワールドカップが最終選考会だったのですが、そこでは思うような結果を出すことができなかった。それで、気持ちを4年後の東京パラリンピックに向けて切り替えようとしていました。そんな時に推薦枠で出場内定の連絡がきたので、すごく不思議な気持ちになりました。
二宮:"うれしい誤算"だったと。
西崎:はい。実感があまりないというのが正直なところです。もっと記録を伸ばさないといけないという責任を感じていますね。
伊藤:期待よりもプレッシャーの方が大きいですか?
西崎:難しいですね。正直に言えば不安もあります。パワーリフティングでは日本からは僕を含めて2人が選ばれていますが、その他の階級にも僕と同じくらいのリオランキングの選手がいてパラリンピック出場の可能性がありました。だから、その人たちの分も頑張らないと。
二宮:推薦枠を与えたIPCもキャリアが短い中でこれだけ記録を伸ばしている点を評価してくれたのかもしれません。東京大会で結果を残すことを考えると、今回リオ大会でパラリンピックの雰囲気を経験できることは有利になりますね。
西崎:そうですね。それはありがたいです。やはりパラリンピックに出場したことのある人からは「明らかに雰囲気が違う」という話を聞きました。それを肌で感じられることはすごく大きいですね。
【出るだけではなく結果を】
二宮:パラ・パワーリフティングの日本の選手登録数はまだ38人とお聞きしました。もしどなたかがメダルを取ったら、競技者人口が一気に増える可能性もありますね。
西崎:はい。その可能性は十分にあると考えています。トレーニングとしてベンチプレスを経験している人も多いですから、比較的競技に入りやすいと思います。
伊藤:リオでメダルを獲得するにはどのくらいの重量を挙げる必要がありますか?
西崎:僕が出場する54キロ級は、ロンドンパラリンピックの結果を参考にするとメダル獲得のラインは180キロぐらいです。
二宮:ずばり西崎選手の目標は?
西崎:本来であればメダルと言いたいのですが、やはり競技を始めてまだ2年です。世界トップとの差は大きい。今の僕の記録からすると8位入賞が一番現実的かなと思っています。それでも8位入賞のラインは155キロくらいと厳しいものです。
二宮:では7~8位の選手の記録をにらんでの勝負となるということですね。目標に向けてこれから大会までに数カ月ありますが、どのくらいまで上積みできそうですか?
西崎:現在僕が持っている記録が135キロ。あと10キロは最低でも伸ばしたい。普通は年間でも10キロの上積みは難しいのですが、そこまでいかないとだめだと思います。
伊藤:リオへはどういった気持ちで臨みたいですか。
西崎:周囲の人への感謝の気持ちを持って臨みたいですね。パワーリフティングにチャレンジするにあたって、会社のみなさんや家族をはじめ、とても沢山の方にサポートしてもらいました。温かく見守っていただいた人たちに対して、「恩返しできる場所」ができたと思っています。このリオパラリンピックという大きな舞台で自分の姿を見せられるのがすごくうれしいです。その分、出るだけではダメだと思っているので、結果を出せるように頑張りたいと思っています。
(おわり)
<西崎哲男(にしざき・てつお)>
1977年4月26日、奈良県生まれ。交通事故で脊髄を損傷し、車いす生活に。その後、車いす陸上を始めると2006年の世界選手権に男子400メートルで出場を果たす。2011年、陸上競技を現役引退。13年に東京五輪・パラリンピック開催が決定後、競技種目をパワーリフティングに変更し現役復帰した。翌年の全日本選手権の男子54キロ級で初優勝。同年のインチョンアジアパラ競技大会では6位入賞を果たす。今年1月の全日本選手権で自身の持つ日本記録を塗り替える135キロで優勝。4月にリオパラリンピック日本代表に内定した。乃村工藝社所属。
(構成・杉浦泰介)
西崎選手の練習風景を取材した「Rio,Rio,Rio」もご覧ください。