二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2016.09.23
第4回 ブランクとの闘い
~パラリンピック初代女王を目指して~(4/5)
二宮清純:東京パラリンピックで金メダルを獲得するために現役復帰した鈴木選手ですが、5年ぶりにコートへ戻ってきてブランクは感じなかったですか?
鈴木亜弥子:そこはすごく感じています。まず体力がなくなっている。年齢を重ねている分もあると思います。自分のピークだった高校3年生のころの体力と比較すると、今は半分ぐらいしかありません。
二宮:現在は29歳ということで、4年後のパラリンピックを迎える時には33歳ですよね。自らの体と相談しながら練習を積むことが大事ですよね。
鈴木:ええ。今無理をしてトレーニングを一気にやってしまうと、絶対にケガをすると思います。自分を抑えて、徐々に徐々に負荷を上げていっています。極端に言えば、今は勝てなくてもいいんです。私が見ているのは4年後ですから、"今は負けてもいい"と思いながら、一番はケガをしないことに重点を置いてトレーニングをしています。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長):現在は基礎練習が中心ですか?
鈴木:そうですね。基礎ばっかりです。今年はランニングや筋トレを中心に行って、基礎体力を付ける計画です。バドミントンの技術向上よりも、今はケガをしないための体づくりを優先しています。
【隠れ金メダル候補の中国勢】
二宮:なるほど。体力は技術よりも戻りにくいものですからね。鈴木選手は8月22日現在で世界ランキング4位に付けています。6月のアイルランド国際大会では世界ランキング1位の選手にも勝利しました。世界のトップ相手にも実力差は感じませんか?
鈴木:ランキング上では1位はデンマークの選手ですが、私の考えでは実力的には中国の選手が1~3位を占めているかなと思います。中国の選手は出場する大会が中国近辺開催のものに限られているため、大会で獲得しているポイントが少ないのです。それでは世界ランキングが上がらないため、実力をランキングだけでは測れないんです。
二宮:国際大会にはあまり出ないで、他国に対し情報を隠しているんですかね。
鈴木:そうかもしれませんね。ですから、その中国勢に対して、私がどこまでいけるか。その機会が今年11月、北京でのアジア選手権があるんです。その大会に中国勢がたくさん出てくると思うので、そこで何位になれるかが楽しみです。
二宮:ひとつの試金石ですね。復帰されてから中国の選手と戦ったことは?
鈴木:まだないんです。なかなか国際大会に参加してこないので......。それでも出場した大会ではランキング上位の選手にも勝っています。他の大会にも出ていたらもっと勝っていると思うので、世界ランキングも上にいるんじゃないかと。中国勢が一番怖い存在ですね。
二宮:隠れ1位、2位がいるということですね。逆に中国側も鈴木選手が復帰してから国際大会でも好調ですし、不気味に思っているんじゃないでしょうかね。
伊藤:一度引退する前は中国の選手と対戦はあったんですか?
鈴木:2009年、2010年には対戦経験もあって、勝ちました。ただ、今のランキング上位にいるのは当時とは違う10代の選手で、すごく若い(笑)。私はまだ対戦経験はありません。だからこそ11月の北京での大会が、やっと中国勢と戦えるチャンス。自分の本当の実力が試せる場所だなと思っています。とても楽しみですね。
(第5回につづく)
<鈴木亜弥子(すずき・あやこ)>
1987年3月14日、埼玉県生まれ。七十七銀行所属。生まれつき右腕が肩より上がらない障害がある。小学3年でバドミントンを始め、中・高・大学までバドミントン部に所属。インターハイに出場するなど健常者の大会で結果を残してきた。大学3年で初めて障がい者の大会に出場し、2009年の世界選手権と2010年のアジアパラ競技大会で金メダルを獲得した。その後、一度は現役を引退したが、東京パラリンピックを目指して今年復帰すると、2月の日本選手権で優勝。アイルランド、インドネシアと国際大会でも連続優勝を果たした。8月22日現在世界ランキング4位。
(構成・杉浦泰介)