二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2016.11.24
第4回 東京パラリンピックで目指すもの
~パラアスリートの真の強化を目指す~(4/4)
二宮清純:4度目のパラリンピックを終えて、直近の目標はどの大会になりますか?
山田拓朗:来年9月にメキシコで世界選手権がありますので、まずはこの大会へ向けて調整を進めていくという感じですね。
二宮:リオデジャネイロパラリンピックでは4種目に出場しましたが、世界選手権で出る種目はもう決まっていますか?
山田:まだこれからですね。50メートルと100メートルの自由形をメインにすると思いますが、その前後の日程で他の種目にエントリーできそうなら挑戦したいです。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長):山田選手は自由形のスペシャリストですが、リオパラリンピックでも自由形3種目(50メートル、100メートル、400メートル)の他に100メートルバタフライに出場しました。違う種目にもチャレンジされていることにはどういった理由があるのですか?
山田:リオではメインレースが終わった後に、バタフライに出場したのは大会スケジュール上余裕があったことが理由のひとつです。また、2020年東京パラリンピックに向けてという意味もありました。来年以降は、自由形に限らずバタフライや個人メドレーにも挑戦したいと思っています。こちらはまだまだ勝負できるレベルではありませんが、リオでは自己ベストを目指してエントリーしました。
※100メートルバタフライは予選敗退。1分6秒07で自己ベストには届かなかった。
二宮:既に4年後も視野に入れていたと。
山田:そうですね。東京パラリンピックを迎えた時にどこまで勝負できる状態にあるかにもよりますが、自由形以外でも挑戦できるようであれば、したいと思っています。
伊藤:東京大会の目標を聞かせてください。
山田:まずは50メートル自由形で金メダルを手にすることです。そして複数種目でメダルを獲ることを目標にしています。そのためには記録も狙わなければいけません。4年後は自己ベストを更新して、メダルを獲りたいと思います。
【強化にも携わりたい】
二宮:山田選手は現在25歳。選手としてのピークに近付いてきている実感はありますか?
山田:まだ伸びる感覚はありますね。ただ体力的な部分では10代後半から20代前半くらいが一番良い時かとは思います。それでも僕のメイン種目は50メートル自由形という短距離なので、長距離種目ほど体力の維持に関しては心配していません。記録を伸ばすことが大事で、むしろそれはこれから良くなるイメージを持っています。
二宮:泳ぎを改善すればタイムは伸びていくと。それに加えて、キャリアを重ねたことで手に入れたものも大きいのでは?
山田:やはり精神的な部分、レースへの気持ちの持っていき方は変わりました。例えばレース前、若い選手に比べれば緊張感や"勝ちたい"という想いをコントロールして、落ち着いて臨めていると思います。
二宮:ご自身の人生設計では、東京パラリンピックに出場した後のことも決めていらっしゃるんですか?
山田:正直、その時になってみないと、何に一番興味があるかわからないです。ただ何かしらの形では水泳やパラリンピックには関わりたいなと思っています。身近なところで言えば、若手の選手の強化に対して何かお手伝いができないかなとは考えていますね。
伊藤:やはり競技は早いうちから始めたほうが有利なんでしょうか?
山田:必ずしもそうとも限らないのですが、やはり中学生、高校生までにある程度しっかり泳いでいないと、ベースが違ってきてしまいます。技術はその上に作られるものなので、大学に入ってから泳ぎ込みをしても、真剣に取り組んでも、なかなか記録が伸びないということもあると思います。
二宮:底辺拡大のためには、選手発掘が重要になってきます。メダリストである山田選手に憧れて水泳を始める人も多いかもしれませんし、若い世代とコミュニケーションをとっていく役割もこれからはあるのかもしれませんね。
山田:そうですね。それに障がいを持った状態で泳ぐときの感覚は、選手本人にしかわからない部分もあります。これまで指導してきた方々のノウハウも生かし、現在の中心選手が引退した後に若い選手たちに伝えていくことが今後の強化にはすごく重要なのではないかと思っています。
(おわり)
<山田拓朗(やまだ・たくろう)>
1991年4月12日、兵庫県生まれ。先天性左前腕亡失でS9、SB8、SM9クラス。3歳で水泳を始め、日本人史上最年少13歳で2004年アテネパラリンピック出場を果たす。その後も北京、ロンドン、リオデジャネイロと4大会連続出場。08年北京パラリンピックは100メートル自由形で5位入賞。12年ロンドンパラリンピックでは50メートル自由形で4位に入った。14年のアジアパラ競技大会では金メダル3個を含む、計6個のメダルを獲得。15年IPC世界水泳選手権では50メートル自由形で銀メダルを手にした。16年リオパラリンピックでは同種目で銅メダルを獲得した。NTTドコモ所属。
(構成・杉浦泰介)