二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2017.01.19
第3回 芽生えたメダル獲得への覚悟
~2020東京へと続く航路~(3/4)
二宮清純:瀬立モニカ選手は、リオデジャネイロパラリンピックのカヌー競技で日本から唯一の出場ながら、見事に決勝進出を果たしました。レース前には「暴れてやるぞ」と意気込んでいたそうですね。
瀬立モニカ:暴れたかったのですが、決勝は8人中最下位になってしまいました。結局、艇の中の足だけが暴れてしまいました(笑)。ただ決勝レースは最下位でしたが、気持ちは最後まで強く持てたと思っています。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長):屋外競技ですから天候にも影響を受けやすいと思います。決勝のレースはどうでしたか?
瀬立:風の影響は大きかったですね。ウォーミングアップで漕いだ時は無風だったのに、レース直前、急に吹いてきてしまったんです。それで動揺してしまいました。レースの後半は、疲れてくるにつれてバランスが取りづらくなります。風の影響を受けやすい端のレーンだったこともあり、風で起きた波に負けてバランスを崩して遅れてしまいました。
二宮:天気までは予測することは難しいですからね。やはり地元選手が有利?
瀬立:そうですね。風の特徴などはそのコースで毎日漕いでいる選手の方が熟知しているわけですから、強いと思います。
二宮:その点を踏まえると、2020年東京パラリンピックのカヌー会場となる「海の森水上競技場」で早く練習を積みたいですね。
瀬立:はい。東京パラリンピック開催の1年前に行われるプレ大会までには完成する予定だそうです。
【パレードで味わったメダリストとの差】
二宮:リオでメダルは獲れませんでしたが、この大舞台を経験したことでメダルを獲るための課題も見えてきたのではないでしょうか。
瀬立:何より経験が足りなかったかなと思います。リオでメダルを獲った選手は他競技からの転向組だったのですが、身体ができあがっていました。それに比べて、私は経験値という点で圧倒的に不利でした。ケガしたのが3年前で、パラカヌーを始めてからはまだ2年。そのうち1年はリハビリといっていい内容でした。心身共にまだアスリートとしては未熟だったと思うんです。そういう意味で今回は悪くない結果だったのかなという気もしています。
伊藤:確かに実質1年でパラリンピック8位入賞はすごいですね。他の競技から転向組の話が出ましたが、例えばどの競技から?
瀬立:今回、金メダルを獲得したジャネット・チッピントン選手(イギリス)は水泳です。1988年ソウル大会から5大会連続出場したスイマーで、メダルを12個も獲っています。銀メダリストのエディナ・ミュラー選手(ドイツ)は車椅子バスケットボール出身です。ロンドンで金メダルを獲っているメンバーなのですが、チーム競技より個人競技でのメダルに価値を求めて、転向してきました。
二宮:では身体は相当に鍛え上げられていると言っていいですね。
瀬立:はい。やはりフィジカル的な差は痛感しましたね。
二宮:世界の強敵と戦うには、技術もさることながら身体も作っていかないということですね。ただ、瀬立選手は東京パラリンピック開催時に22歳です。選手として、これからピークを迎えるといっていい。
瀬立:そうだと思います。私はまだまだ競技を始めたばかりですから。私は2020年の東京パラリンピック出場を目指して競技をスタートさせたので、正直なところリオ大会に出られるとは思っていなかったんです。
伊藤:パラリンピックに1度出場しているか否かでは、その選手の経験値は全く違ってきますね。
瀬立:そうですね。それに加えて決勝の舞台に立てたことが、今後に向けてすごく大きなアドバンテージだと感じているんです。同世代の若い選手を見ると、決勝の舞台を経験した選手はあまりいなかったので、いい経験をすることができたかなと。もちろん陸上の辻沙絵さんなどメダルを獲った選手もいますけど。
二宮:リオオリンピック・パラリンピックのメダリストによる銀座でのパレードをTVで見た時に、"その場にいたかった"と悔しさがこみ上げてきたと伺いました。
瀬立:あのパレードは一番メダルを獲った選手と獲っていない選手の差を感じる瞬間かなと思うんです。メダリストでなければ参加できませんから。今回、リオに出られるだけでも私はうれしかったですし、パラリンピックに出ること自体が目標でした。でも出場してみたら、もっと欲が出てきちゃうんですよね。"出るからにはメダル!"と臨んだのですが、今回は叶いませんでした。今回のパレードを目にして、"2020年東京パラリンピックは自分がパレード、表彰台に立っていくんだぞ"という覚悟につながりましたね。
(第4回につづく)
<瀬立モニカ(せりゅう・もにか)>
1997年11月17日、東京都生まれ。パラカヌー・KL1クラス。高校1年時に、体育の授業でケガをして体幹機能障害を負う。高校2年からパラカヌーを始めると、その年(2014)年から日本選手権を連覇。2015年には世界選手権に出場した。今年のリオデジャネイロパラリンピックでは、8位入賞。筑波大学在学中。
(構成・杉浦泰介)